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マグカップひとつぶんの祝福

マグカップを買ったら「おめでとう」と言われた。

半年前、「三億円あったら多治見に移住したい」と言っていたミウラが、三億円がなくとも転職をして多治見に移住したので、リカぴょとイクミと一緒に多治見を案内してもらった。「三億円浮いたじゃん、次は何する?」って話をした。

焼き物のお店が軒を連ねるオリベストリートを歩いていたら、古民家からバンドのセッションが聴こえてきたので入ってみる。生演奏が聴こえる店内を物色していたら、目に止まったマグカップがあった。内側が銀色で、外側はザラザラした鮮やかなオレンジ。5820円。自分用のカップ一つ買うには、決して安いとは言えない。リカぴょに「風音ちゃんっぽい」と言われる。だよね~。ミウラが、「前ここに並んでたユニコーンのマグカップってもうなくなっちゃいましたか?」と店員さんに聞いている。

カップの棚から離れたら、今日も森道にいるスリーパーさんから「今年のりんごの音楽祭のテーマ、これはどうかな」とLINEの通知が来ていたので携帯を開く。うわー、めっちゃいいじゃん。これを軸にどんな告知文を書こう。返信をする。

店内を何周もして、結局オレンジのマグカップの前に戻ってくる。森道が今週末じゃなかったら、ミウラが多治見にいなかったら、バンドの演奏が聴こえてこなかったら、今日ここには来なかった。というか、値段を見る前からこれが欲しいって決まっていた。

店を出て、紙袋を掲げて「買った!」と言ったら、ミウラに「おめでとう」と言われた。ちょっと面食らう。「作家ものの器を迎え入れるってめでたいやん!」。たしかに、これはめでたい。ようこそ私の元へ。三億円あったらしたいこと、相変わらず何も答えられなかった。欲しい物も、叶えたいこともそんなにないけど、会いたい人に会いにきて、いいなと思ったものを躊躇わず手元に置けるような自分でいたい。

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