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「あ、私いま恋に落ちたんだなって気づいたの」(中編)-沼の話

【7人目】

Mさん(27)

沼と出会ったきっかけ:バー
沼期間:3年

(前編はこちら)

私はきっともっと沼のことが好きになる

家に帰ってからも、胸が高鳴って寝られなかった。当時私はピュアだったから、「付き合う前にチューしちゃった、もう付き合えないかも!」ってやきもきした。でも会いたいな……って。

私はきっともっと沼のこと好きになるし、沼も私のこと好きになるはず!って予感がしてたの。ご飯には誘えなくてLINEだけしてた。「またね、バーで会ったらよろしくね」って送って。いざバーで会ったら照れくさくて、姿勢がよく見えるように背筋を伸ばしてみたり。

自分の中では「好きかも!」ってすごく勢いがあったの。でも沼はまだそこまでって感じだった。キスした日から1ヶ月くらいで軽く振られて、一回諦めたんだ。

「最近どうしてる?」

それから私は友だちの紹介で知り合った人と付き合うことになって、3ヶ月くらいバーには行かなかったの。沼から「最近どうしてるの?」って連絡がきて、おっと、いきなりなんだ?って思ったけど、でももう関係ないしなって「別に普通だよ」とか素っ気なく返事した。

ある日、急にイメチェンしたくて前髪を切って、その足で久々にバーに向かったの。沼もカウンターにいて、沼がマスターと「あの人誰?」「Mちゃんたよ」「えっ」って話してるのがちらっと聞こえた。

その日は話さずに帰ったんだけど、沼からLINEが来たの。「久々に見たらきれいになってて誰かわからなかったよ」って!そこからLINEするようになったんだけど、スタンプとか絵文字無しで返してた。「なんか冷たいじゃん」って言われたから、「いま付き合ってる人いるから」って返したら「えーショック」って。

「なんでショックなの?」って聞いたら、「俺はMちゃんと仲良くなりたかった」って言うの。「私に冷たかったじゃん」って言ったら、「出会ったばっかだったし」って。私は、「ふたりきりでは会えないけどバーで会ったら話そうよ」って返した。

「二人で落ち合おう」

それから私は彼氏と別れて、またあのバーに一人でよく行くようになった。ある日、沼が酔ってて、私も酔ってた日があってね。私が先に帰ろうとしたら、沼に「おぉ、帰るんけ、気ぃつけて帰れよー」って言われたけど、店を出たら「二人で落ち合おう」ってLINEが連絡が来てた。

それから、24時間やってるボロい小さい飲み屋でサシ飲みしたの。他に人はいなくて、小さいテーブルで横並び。

また、色んな話をしてくれた。地元の話、友達の話、家族の話。彼の地元はヤンキーが多いところで、今までは話をすると否定的な目で見られることが多かったんだって。こんなにちゃんと聞いてくれる奴いないよ、お前なら俺の地元の奴らにも親にも紹介できるって初めて思えたよって言ってくれた。

絶対何か縁があるはず

それでね、「お前に彼氏が出来て俺はショックだった」って言われたの。私は、「彼氏とはもう別れてるけど、二人で会うの最後にしよう」って言った。私たちきっとこのまま何も生まれないよって。そしたら、「俺はMちゃんと離れたくない。これから仲良くなりたい!」って言われた。

結局そこからずーっと話してて、気づいたら朝になってた。出会ってまだ数ヶ月でこれだけわかりあえて、絶対なにか縁があると思った。最初は素っ気なかったのに、熱烈に「仲良くなりたい」って向こうから言ってくるのも初めてだったし。

でも、その夜は私ちゃんとバイバイしたの。朝焼けの中で、向こうがポツンって立ってたのを覚えてる。帰ってから、「先に帰っちゃって寂しかった」LINEがきた。

一回は振られて諦めたけど私も沼が好きだったから、そんなふうに言われたら好きになっちゃうよね。

きっと、ここまでは恋だったんだ。

それからまた、バーでばったり会ったの。同じお店にいて、店ではお互い素っ気なくしてるのに常連のみんなに内緒でこっそり「あとでね」「あとでね」ってLINEしあって、タイミングをずらして店を出て、二人で外で落ち合って初めて沼の家に行った。

きっと、ここまでは恋だったんだ。ここから沼が始まる。

手を繋いでタクシーに乗り込んで、沼の家に行ったの。友達がヤンキーな時点で気づくべきだったんだけどね、彼の素性知らなかったんだ。彼のアパートについたら、白くて高そーな大きい車が停まってて、「これ俺の車」って言われて、へっ!?てびっくりした。

1LDKのアパートだったんだけど、わかるかな、ドアがすごくしっかりしてて。安い賃貸の玄関と違うの。重い扉を開けたら、彼のハピネスの柔軟剤の匂いがふわっとした。部屋はすっごく散らかってた。

初夏でも長袖のシャツのわけ

電気を軽くつけて、玄関でもう我慢できなくてキスして、壁に頭をガンってぶつけた。洋画みたいにね。流れるようにベットへもつれ合って。情熱的ね、なんて思ってベットに押し倒されて沼を見上げてたら、沼がワイシャツを脱いだの。

肩から腕にかけてね、和彫りが入ってた。虎とか、もういろんな絵の。初夏でも長袖のワイシャツを着てたのはこのせいだったのか……ってわかったよ。さすがに私もびっくりして、「これなに?」って聞いたら、「おー……これは……ハロウィンの、シール。こういうのやだ?」って言われた「やじゃないけど…」て答えたな。内心、完全にギャップにやられてた。だって最初は冴えない陰キャだと思ってたのに!!

ベットの枕元にはかわいいぬいぐるみが並んでた。抱きしめられた感じ、骨ばった沼の背中、沼の匂い。全部が幸せな夜だった。

次の日の朝一緒に起きて、いびきをかいてる彼を起こした。着替えてるとこ見てたら、しっかりした大手の車の会社の制服で、「ちゃんと働いてるんだ…!」ってまたギャップにやられた。一緒にセブンでコーヒーを買って、「じゃあね」って別れたの。

付き合いたかったけど……

それから、バーで会ったらこっそりLINEして、「あとでね」「あとでね」って外で落ち合って彼の家に行くようになった。デートはしたことがない。前もって予定を立てることもなかったな。バーで会ったら、っていうお決まりの流れ。

沼はかわいかったの。母性本能くすぐり系で甘え上手。バーのみんなには内緒にしてるのに、酔うと「おいM!」て名前呼んじゃったり。私がバーで肩出した服着てると、「おい、しまえ肩」って服を羽織らせてきたり、外で合流したら「おー」ってガシってハグしてくれた。「もー酔いすぎ!」って流してたけど、内心うれしかったよ。

付き合いたかったけど、何考えてるかわからなかった。家に行って致すのがずっと続いて、ある出来事をきっかけに一回離れたんだ。告白もちゃんとしたけど、振られてしまった。それでも、沼のそばにいたくて、「友だちでいよう」ってことになった。

それからかな、彼の周りにいろんな女の陰が見え始めた。

(後編へ続く)


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