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ふむもくエッセイ

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ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
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#イラストエッセイ

199 まるみとあたたかさ

「まるみ」を感じると、やわらかなあたたかさが胸に広がる。 たとえば、しっかりと酸味のあるトマトをコトコトと煮て、味見をすると酸味がやわらいでコクのある味になっていたとき。 酸っぱさがまるくなった、と思う。 たとえば、誰かの言葉にショックを受けてさみしさがにじむ怒りを感じても、その思いを外に吐き出すことなく自分だけで上手に気持ちを切り替えられたとき。 まるみのある強さが少しは身についたかも、と思う。 または、冬の厳しい寒さの中に午後の陽がさしたとき。 冷たい空気がまぁ

192 知らない道を歩けば

ラジオで歴史の先生がこんなことを言っていた。 「いろいろな時代の記録や人の日記を読んできたが、どの時代の人も『今は変化の時である』と書いている」 そう、世界は常に変化している。 実際、ここ数年だけを見ても、予想外のことが立て続けに起こった。 目にするとつらくなるようなニュースが多いように感じるが、そんな中でも世界をよくしようと技術の進歩や新しいものの開発に注力する人もいれば、活動をする人もいる。 たとえ大きなニュースにはならなくても、良い変化だってどこかでたくさん起こ

110 なつかしい約束

すっかり春になった空の下で、その日も電車に乗りました。 ゆらゆらと揺れながら、繰り返されてきたいくつもの午前と同じように その日も電車の中で立っていました。 冬は曇り空が多かったので本ばかり読んでいましたが、まばゆい光が 美しい今の季節は、電車の窓から見える風景を楽しんでいます。 仕事場に着くまでに電車は3つの川を超えます。 川はそれぞれの輝き方で太陽を受け止めています。 大きめのたっぷりとした川、幅はやや細いけれど土手が充実している川、緑色の橋がかかった川。 どの水面も

108 山から見える風景

春風が心地よく陽がやわらかかったので、洗濯物をどっさり干したあと車で山に行きました。ほとんど車で登って、ちょこちょこっと自分の足で頂上まで行く気楽な山登りです。 登った山は、頂上らしきところに電波塔があって、その付近に木のベンチ二つと岩がいくつかある山です。木はまだまだ冬仕様、草も茶色くなって風にからからと吹かれています。 私以外には三十代くらいの男性と老夫婦、それから親子がいました。 三十代くらいの男性は、なんとベンチで眠っていました。 ひだまりの中、すやすやと気持ち

107 ミモザのように

雪が降る日のさむさは、あきらかにいつもとちがっていて、特別なつめたさです。 いつものさむさはすぅとした感じ。 雪のさむさはきんとした感じ。 目に見えないけれど、わかること。 仕事中にふと窓を見たら、ひらひらとお砂糖のような雪が舞っていました。 雪が降る日の白さも、特別な白さです。 雪の量は関係なく、空気がすこしだけ、白濁している気がします。 目に見えることで、わかること。 ―どうしても、自信が持てないんです。 一昨年の春、私に悩みを打ち明けてくれた高校生の女の子がいまし

103 金平糖をとかしながら

きりりと冷えた夜の帰り道。 鼻を赤くしながら橋を渡る途中、ふと見上げたら星が出ていました。 濃くて深い紺色の夜空にビーズが散りばめられているようでした。 大きいのや小さいの。それぞれがそれぞれの方法で灯っています。 さむくて暗くても、仕事でくたびれていても、星が瞬く夜空を見たら少し元気が出ます。 そして、星がきれいな夜は、金平糖を食べたくなります。 -------------------- 昔から金平糖が大好きでした。 シンプルなあまさのお星さま。 噛めばかりっとかたく

102 雨あがりに見つけた世界#手書きnoteを書こう

何気なく暮らしていても、出会いはあります。 職場で初めてお会いする方。近所の電線に止まっている小鳥。スーパーにならんでいる立派なきのこ。テレビを見ていたら聞こえてきた好みで心ゆさぶる音楽。 どれも心はずむうれしい出会いです。 2020年に入って、素敵な企画と出会いました。 それは、だいすーけさんの#手書きnote です。 人の手仕事が目に見えるあたたかな企画。 それに出会えたことに感謝して、今回は手書きnoteをかいてみたいと思います。 ----------------

099 生まれたての一年を歩く

気持ちの問題なのかもしれないけれど、一月一日はやはり特別な気がします。 朝、目が覚めたときに「あ、新しい」と感じます。 見えるのは、いつもと同じ天井、窓、デスクの上の本、本、本。 どれひとつとして前の日と変わらないはずなのに、やっぱり思ってしまいます。 「あ、新しい」 何年か前から、私は新年最初の日の朝、家族に挨拶をする前に散歩をするようになりました。 単純に早く起きすぎてしまうということもありますが、この生まれたての年に自分をなじませたい気持ちも強いようです。 お化粧

098 お気に入りの風景を切り取って

お気に入りの風景はありますか。 写真でも、行ったことのある場所でも、普段通る道でも。 その場所を目にすると、疲れていてもちょっと嬉しくなるような。 あるいは、安心するような。 そんなお気に入りの風景はありますか。 私はあります。 今回は、私のお気に入り風景を三つご紹介します。 1 日曜の午前中、自宅の窓辺 私が暮らしているマンションは、古いのですが日当たりが良いので、お天気の良い午前中は至福のひとときです。 カーテンを開けていると、さんさんとお日さまが入ってきます

095 30秒の小さくて確かなしあわせ

お日さまが今にも出そうな朝の時間。 ベランダに出たら、息が白くてうれしくなりました。ふわっと浮かぶ呼吸の形。 ただの息なのに、いつもしていることなのに、ちょっと楽しくなります。 やわらかく広がっていく自分の生きている証を見て、あ、うれしい、と。 冬が教えてくれる、小さなたのしみです。 こんな風に、普段は意識しないことでも、気づけばうれしさで胸いっぱいになることがあります。 -------------------- この前の休日、電車に乗って海へ行きました。 さむくなって

093 美しく強い花

もし、木曜日がお休みだったらなにをしますか。 その木曜日がきれいに晴れていて、なんだか体も元気で、早起きをしたら。 しっかりと冷えた空気とおだやかな陽の光の中で、予定はなにもありません。 なにをしますか。 洗濯とか掃除とかアイロンがけとか。 洗濯は洋服だけでなく、マットも洗って。掃除はささっと。 アイロンがけは…夜にしましょう。 こんな感じでひととおり家仕事が終わったら、お出かけしましょ。 木曜日がお休みの方はあまりいないせいか、街も公園もなんだか静か。 冬はぐんと冷たい

092 落ちていく時間

朝、勇気を出して窓をあけたら空きれいに晴れていて、ちょっとうれしい気持ち。 でも、空気はぐんと冷たいです(さむい朝に窓をあけることは、ちょっとした覚悟が必要なのです)。 すいっと冷えた空気が私を包んで、鼻から体の中まで冷やします。 さむい。でもなんだかいい気持ち。 そう思って見上げると、思っていたよりもずっと速く雲が流れていました。 いつもはどちらかというと止まっているように見える雲がふいふいと流れていきます。 あ、きちんと時間は流れている。 こんな風に、あたりまえのこ

091 白い日にはお茶と音楽を

雲がたくさん出て空が白い日。 せっかくのお休みなのに、なんとなく外に出たくない日。 そんな日は家カフェしましょう。 どのお茶をいれるか、どの食器を使うかは気分次第。ひとつずつ選んでいくうちに、沈んでいた心がわくわくしはじめます。ケトルにお水を入れて、さぁお湯をわかしましょう。 お菓子があれば、もっとうれしい。(こういう日のためにお菓子のストックはいつも気にかけています。)音楽も選びます。しばらく新しいCDを購入していないのですが、今持っているCDたちでも、まだまだ飽きませ

090 ぜいたくな時間

何年も前から、お手本にしたいな、と思っている人がいます。 それは、図書館にお勤めしていたころに出会った女性の職員さん。 なにをお手本にしたいかと言うと、しぐさです。 その職員さんは、どれほどいそがしくても、そして(おそらく)急いでいるときも、丁寧に見える素敵な立ち振る舞いをされるのです。席の立ち方、座り方。物の持ち方。大学を卒業したばかりの私は、素直に「素敵なひとだな」と思いました。 ゆったりとしていながらも無駄な動きがないので、結果的に早い対応ができています。 この方に