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099 生まれたての一年を歩く

気持ちの問題なのかもしれないけれど、一月一日はやはり特別な気がします。
朝、目が覚めたときに「あ、新しい」と感じます。
見えるのは、いつもと同じ天井、窓、デスクの上の本、本、本。

どれひとつとして前の日と変わらないはずなのに、やっぱり思ってしまいます。
「あ、新しい」

何年か前から、私は新年最初の日の朝、家族に挨拶をする前に散歩をするようになりました。
単純に早く起きすぎてしまうということもありますが、この生まれたての年に自分をなじませたい気持ちも強いようです。

お化粧もせずに、もこもことダウンコートとコーデュロイのパンツで防寒してドアを開けます。

まだ薄暗くて、でもお日さまの気配を感じる空気。きんと冷えています。
昨日と今日。つながっているはずなのに、もう昨日は別の世界のようです。
何が変わったのかはわかりません。でも、確かに感じるのです。
あ、新しい。

川に向かって歩きます。
意外と人は歩いていません。空は薄灰色。
コンクリートの地面はぎゅっとかたくなっています。
猫がひょこひょこと歩いていたので目で挨拶をしました。

昔ながらのたばこ屋さんはシャッターをぴしりと閉めています。赤いひさしは薄黒く汚れています。
誰かの手袋が片方だけ落っこちています。黒い毛糸で、グリーンと紫の模様が入っています。
あのアパートは、数年前まで美容室でした。パーマ・カットと書いてある茶色い看板がやさしくてお気に入りでした。今はモダンなダークグレーのアパートになっています。

景色は一歩ずつしか流れません。
一歩ずつのスピードだと、いろいろなものが目に入ります。
見えるままの景色と、見えるものの後ろにひそむ記憶も一緒に。
そのすべてを覚えられないのがもどかしい。そのくらい、いつもと同じように美しい朝です。

足をひとつ前に出すたびにひとつ忘れてしまいます。
よく味わいながら歩いていても、ふと見たものや感情と言ってもいいのかわからないくらい淡い、淡い小さな思いはとても儚くて、一歩ごとにさらさらと薄まって消えてしまいます。

でも、メモはせずただただ景色と思いを流れるままにしておきます。
すべては覚えていられないけれど、すべてを忘れるわけでもありません。

記憶の粒として私の中に残ったものたちは、大切にしまっておきます。


これから、こんな風に歩いていきたいな、と思います。
一歩ずつ、流れる景色と感情の中、なにかを忘れながら、なにかを覚えながら。
そして、振り返ったときに、これまで見たものたちがやさしく灯っていたらいいな。
そんな一年になりますように。
歩いていきます。

今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願いします。

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