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093 美しく強い花

もし、木曜日がお休みだったらなにをしますか。
その木曜日がきれいに晴れていて、なんだか体も元気で、早起きをしたら。
しっかりと冷えた空気とおだやかな陽の光の中で、予定はなにもありません。
なにをしますか。

洗濯とか掃除とかアイロンがけとか。
洗濯は洋服だけでなく、マットも洗って。掃除はささっと。
アイロンがけは…夜にしましょう。
こんな感じでひととおり家仕事が終わったら、お出かけしましょ。

木曜日がお休みの方はあまりいないせいか、街も公園もなんだか静か。
冬はぐんと冷たい風をたくさん抱えているのに、日差しのあたたかさはさえぎりません。
足もとでは、しゃかしゃかと枯葉が音を立てています。
なんだか、みんなが味方になったみたい。
お休みは、やっぱりうれしいものです。

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足どり軽く、お花屋さんに行きました。
冬は濃い色のお花が多いように感じます。
ポインセチアやプリムラ、シクラメン。
寒空の下であざやかな色のつぼみや花をつけて並んでいました。

そんな中、切り花のところにストックがありました。
華やかな色の花が並ぶ中で、やさしいピンク色で背高のっぽのストック。
たっぷりお花をつけていて、一本でも十分華やかです。

見とれていると、お店の方が話しかけてくださいました。
「さっき入ったばかりで、香りも良いですよ」
私はそっと顔を花に近づけてみました。ほのかに甘い香り。さむいはずなのに、なぜか少し体がぽかぽかしました。
「素敵ですねぇ」
と感想を言うと、
「花もちのいい子です。茎が太いでしょう?ストックは茎という意味なんですよ。さむい中きれいに咲いています」
とお店の方が教えてくださいました。
なんだかうれしくなって、三本購入しました。
心はずませながら、お花を抱えて帰りました。

家に帰って早速いけてみました。
私はお花をいけるセンスがあまりないので、苦戦…。
バランスがなかなかむずかしいのです。
しばらく、ああでもないこうでもないと調整をして、結局細い花瓶の力でなんとか形にしました。その間も、ストックはやさしく甘い香りで私を包みます。

私がストックと向き合っていたら、猫のくるみがやってきました(くるみは今実家から預かっています。マンションの大家さんに相談したら、預かっていいよ、と許可してくださいました)。

くるみは、細い花瓶に入ったストックを見てふんふん、と匂いをかいでいました。
一本一本、丁寧に花を楽しんでいるくるみ。花の美しさや香りの素晴らしさは動物関係なくわかるものなんだな、と思いました。

せっかく、自宅にお迎えしたので、ストックのことを少し調べてみました。
花言葉は「愛情の絆」と「永遠の美」だそうです。美しく、素敵な花言葉です。
花言葉には、たいていその花にまつわるお話もあります。
「愛情の絆」の由来にはこのようなお話があるそうです。

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昔、とある国のお姫さまは王子さまと恋に落ちました。しかし、彼は敵国の王子さまでした。秘密にしていた関係ですが、お姫さまの父親に知られてしまい、お姫さまはお城から出ることを禁じられます。そこで、王子さまは夜中にお城の屋上にロープを投げ入れ、お姫さまがそのロープを伝って降りてくるという方法でひそかに会うようになりました。ところが、ある日ロープが切れてしまいお姫さまは亡くなってしまったのです。それを哀れんだ神様がお姫さまをストックの花に変えました。
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たしかに、ストックのやわらかい色あい、上品な美しさはお姫さまを連想します。また、花びらの一つ一つが繊細に波打っていて、お姫さまのドレスのようです。
そして、長くてしっかりとした茎はどこかロープを想起させます。

このお話を読んで感じたことは、お姫さまと王子さまの愛情ゆえの勇気。

逢瀬のためとはいえ、夜中にロープを使って降りるという行為は非常に勇気のいることだと思います。危なくても、会わずにはいられなかったお姫さまの愛の深さを感じます。

また、王子さまは会うために夜中に敵国に侵入します。これも、ばれたら殺されてしまう可能性のある危険な行動です。

二人ともおそらく危険は承知の上で、それでも愛のために行動せざるを得なかったのでしょう。まさに愛の絆をテーマにしたお話です。


「永遠の美」は、花持ちがよく、香りが長続きすることにちなんでいます。
お花屋さんも
「冬でも明るく咲き続ける、美しく強いお花です」
とお話してくださいました。

美しく強い花。

勇敢なお姫さまにぴったりの花です。
お話はお姫さまが亡くなり花になったあとのことは書かれていませんでした。
お姫さまの転落死は、王子さまに大きなショックを与えたことと思います。
王子さまは取り返しのつかないかなしみに打たれ、後悔したことでしょう。

でも、お姫さまは花になりました。
可憐で芯のあるしっかりとした茎を持った花になりました。

人間のままであれば、敵対している国同士である以上、二人の結婚は認められなかったでしょうし、お互いの国に堂々と入ることも許されなかったでしょう。
しかし、花であれば王子さまの国に入ることができます。

私は物語の続きをこう想像します。

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哀れんだ神様がお姫さまをストックの花に変えました。
王子さまはストックを抱え、国に帰りました。
ストックは他の花と違い、ずっとずっと美しく咲き続けました。
その花の美しさに感動した王さまは、家臣にストックの種を国中に巻くよう命じました。

そして、あちこちでストックが咲きほこるころ、種は風に乗って敵国にも花をつけました。
ストックを見た敵国の王さまとお妃さまは、花から漂う香りにどこか懐かしさを感じました。それから、なぜか涙が止まりませんでした。

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お花屋さんで出会ったストックは、リビングにあるTV台に飾っています。
美しくて強い花は、甘いかおりとともに冬の部屋をみずみずしく彩っています。
木曜日の休日、素敵なお花と物語に出会いました。

今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


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