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095 30秒の小さくて確かなしあわせ

お日さまが今にも出そうな朝の時間。
ベランダに出たら、息が白くてうれしくなりました。ふわっと浮かぶ呼吸の形。
ただの息なのに、いつもしていることなのに、ちょっと楽しくなります。
やわらかく広がっていく自分の生きている証を見て、あ、うれしい、と。
冬が教えてくれる、小さなたのしみです。

こんな風に、普段は意識しないことでも、気づけばうれしさで胸いっぱいになることがあります。

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この前の休日、電車に乗って海へ行きました。
さむくなってきたときの水の色を見たかったのです。
ついでに、海のすぐ近くにあるカフェにも行きたい、とわくわくしながら家を出ました。

路面電車はかたんことんと進みます。私はこのゆっくりな電車のスピードが好きで、揺れを味わいながらを本読んだり(と書いたら酔いそう笑)、普段は見ない景色を見たりと、楽しく過ごしていました。

信号で電車が止まったとき、私は窓の外を見ました。
焼き肉屋さん、靴屋さん、なんでも屋さん(?)。アパートもたくさん。薄茶色のアパートの二階には植物がたくさん置いてありました。

そんな景色をながめていると、電車の隣に車が止まりました。紺色の教習車で、車の頭には「仮免許 練習中」という文字が入った細い三角形のものが置いてあります。ちょうど私の真隣に止まっているので、車の中が見えます。
運転席には大学生くらいの年齢の青いパーカーを着た男のひと、助手席には五十代くらいの男性教官が乗っていました。

あら、こんな覗きみたいな…見てはいけない、と顔を逸らそうとしたのですが、目が離せなくなりました。なぜなら、二人とも満面の笑みだったのです。
教官さんはパーカーさんの方に顔を向け、歯を出して豪快に笑っています。パーカーさんは前を向いたまま、にこにこと少しだけはずかしそうに笑っています。
もちろん、私と彼らの間には電車の窓や車の窓がありますから、声は聞こえません。でも、教官さんの笑い声が聞こえるような気がしました。

二人はどんな話をしているのでしょう。

家族?学校?将来の夢?免許を取ったらどこへいく?


親子くらい歳が離れている二人。
パーカーさんが自動車の免許を取ったら、教官さんと会うことはなくなるかもしれません。

それでも、今こんなに笑っている。

いいなぁ。
まっすぐ、そう思いました。
それから、とても、とてもうれしくなりました。

信号が青になって、ゆっくりと電車は進みます。
教習車は、しばらく電車と並走していましたが、のちに左折してほかの道へ行きました。私が彼らを見ていたのはせいぜい2、30秒のことです。

でも、車が見えなくなってからも、胸がぽかぽかします。
お天気が良くて、電車の音は心地良くて、私は海を見に行く途中。

名前も年齢もなんにも知らないひとが、免許を取るために運転の練習をしていた。教官とのちょっとした会話で、あんなに笑顔になっていた。

そのひとコマを目にして、私もうんとうれしくなった。

たったそれだけ。でも。

あ、そうか。
頭の中の霧がさらさらと晴れました。
冬の光をあびて草がすこし元気になるように、窓を開けているカーテンが風の形のままはためくように、自由で当たり前なうれしい発見。

しあわせってきっとシンプル。
だれかが笑っているだけでうれしいこともあるのです。

笑顔には、そんな力があるのですね。
ほんの短い時間で心をあたためてくれる、そんな発見でした。

あの男の子と教官の方が一日に一回でも笑顔になれますように。

今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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おまけー「#404美術館」に寄せてー

今回のイラストは「#404美術館」に応募しようと思って描きました。
エラー画面は、出会ってしまうとちょっとショック。でも、そんな画面でも見たらすこしうれしくなるような、でもnoteらしさを残したイラストをテーマにしました。

Noteでは音楽を紹介されている方もいれば、素敵な写真を載せている方、文章や詩、漫画をアップされている方などあらゆるジャンルの方々が集まっています。自由でいろんなものが詰め込まれているイメージと、読めば発見があったり(虫眼鏡)、それで頭が冴えたり(コーヒー)、心癒されたり(キャンドル)するイラストをちりばめました。
色は、noteのカラー(と私が思っている)水色と迷ったのですが、落ち着いた印象にまとめました。

普通はエラーが分かるとすぐ閉じてしまう画面を30秒でも見てもらえたら、そしてラッキーと思ってもらえたらいいな、という思いを込めて描きました。

記事もそれに沿ったものにしようと思い、ちょうど最近あった私の30秒のしあわせを書きました。

この記事を読んだ方、イラストを見た方が30秒だけでも何かを感じていただけたら、私にとっては30秒以上の大きなしあわせです。

作品名:30秒のしあわせ

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