マガジンのカバー画像

ふむもくエッセイ

109
ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
運営しているクリエイター

2019年9月の記事一覧

060 関係を説明できない大切なひと

私には、十代の知り合いがいます。 友だち、と言っていいのかわからず、上では書いてしまいましたが、知り合いというほど軽い関係でもない男の子です。 あ、もちろん恋人でもないですよ。アヤシイ関係でもありません。 ちょっとした仕事で知り合った男の子です。 知り合った当時高校生だった彼は今、大学生になりました。 色が白くやせていて、黒い髪がよく似合う男の子です。 彼は、進学先の大学の関係で九州に行ってしまいましたが、先日私のところに遊びに来てくれました。「こんにちは」と頭を下げて。

058 カメラで秋を切り取りに

お散歩がたのしい季節になりました。 日の光があきらかにやわらいで、空気がからりとして。 こういう日はお出かけしましょう。 お出かけといっても、ショッピングではありません。 お買いものもすてきですが、こんなに気持ちがいいのにお店の中に入ってしまうのは、少しもったいない気がします。 お化粧を簡単に済ませて、楽な格好でスニーカーに足を入れたら、カメラを持って出かけましょう。 空を写したり、近所にあるポストを写したり、公園に咲いている秋の花を写したり。 景色をどんな風に切り取ろう

057 紺色のきもち

仕事のあと、紺色の空と濃い灰色の雲の下で、私は見事に孤独でした。 ぽかりと明るい月があって、信号の色が妙にあざやかで、自分の足がとても小さく見えました。 水分を含んだ風が吹いて、そばにあった木の葉が何枚か飛ばされていきました。 ぱささわざざ 私も、飛ばされてしまえばいいのに、と思いました。 もっと、気持ちを強く持つべきなのでしょう。 人間である以上、不完全なのだから。 今、私は人に何かきついことを言われても、それがどれほど理不尽なことでも、憤りを感じはしますが、それ

055 やさしさをどうぞ

朝、家のドアを開けたら、からりと乾いた風が体を包んで秋を感じました。 こんな風に、いつも次の季節は不意にやってきます。 そして、気温が下がるにつれてみかんが食べたくなり、みかんが食べたくなるとおばあちゃんのことを思い出します。 -------------------- 私のおばあちゃんのイメージは秋から冬です。 それは、いつも編みものをしていたからかもしれないし、おばあちゃんの好物がみかんだったからかもしれません。よく、どんぶりいっぱいの-汁が今にもこぼれそうな-うどんを

054 小さなまんが家だったころ

みなさんは、幼いころどんな遊びをしましたか。 私は両親共働きでしたし、兄姉とも年が離れていたので、ひとり遊びをすることが多かったように思います。 ピアノを弾いたり、シルバニアファミリーをしたり、カレンダーの裏にお絵かきをしたり、絵本を朗読したり。庭でしゃぼん玉もよく吹いていました。 ときどき兄や姉がひょっこりと遊びに参戦してくれて、オセロやドミノをしてくれていました。 その時は、なにがおかしいのかわからないような些細なことでも兄妹でけらけらと笑っていました。たとえば、庭に

052 ほころぶポタージュ

姉に会いに実家に帰ったら、ポタージュのにおいがしました。 母がにこにこしながらお鍋をあたためています。 「じゃがいものポタージュ。あなた好きでしょう?」 そう言って、ことこととお鍋を火にかけています。 私は食卓の椅子に腰かけました。 もうすぐ、姉の結婚式です。 海の見える式場で、小ぢんまりと身内だけで結婚パーティをします。 一か月ほど前に、姉の旦那さんになる方のご家族とごあいさつのお食事をしました。 大変やさしく穏やかなご家族で、終始笑顔で包まれた、すてきな会でした。

051 日当たりのいい部屋

朝。 ごみ捨てをしようと思い、ドアを開けたらまぶしい光と秋風がそこにいました。 さわさわと近くの木が葉をならす音も聞こえます。 やわらかな音となごやかな光。見なれたはずのビルや家もどこかあざやかに見えて、朝ってこんなにきれいだったかしら、と思いました。 こういう日は、思う存分お部屋に光を入れましょう。 私が暮らしているマンションは、築三十年以上のおじいちゃんマンションです。 ちょこちょこリフォームはしていますが、建物外観や間取りの古めかしさは隠せません。 先日も、ついにお

048 ほっこりくつした

みなさんは秋のしたくをしましたか。 お昼はまだ暑いのですが、朝と夜は暑さがやわらいできました。 会社へ出勤するときに空を高く感じたり、洗濯物を干すときにからっとした空気が頬をなでたり。街もじわじわと秋色になりつつあるので、秋に履きたいくつしたを買いに行きました。 くつしたはやるべくしっかりとした作りで、やわらかい手触りのものを選びます。 私はモノを選ぶのがとても遅いです。これいいなと思っても、あれと合うかしら、色はこれで良いかしら、などぐるぐると考えてしまいます。 くつした

046 橋の上で

夜。21時くらい。 アイスクリームが食べたくなったので、散歩がてら外に出ました。 ドアを開けたとたん、ふわりと涼しい風に包まれました。 冷たいわけではないけれど、確実に夏とは違う風。 季節の変わり目は、いつもこんな風にやわらかく訪れます。 近くのスーパーに行こうとしましたが、あまりにも気持ちの良い風だったので、橋まで行ってみることにしました。私は川が好きなのです。 とことこ歩きながら、空を見たりお店の明かりを見たり。 散歩は気分転換と同時にとても癒されます。 川にたど

043 ブルー・イン・ブルー

涼しくなってきたと思ったら、また少し暑くなったようです。 窓を開けて寝ていたら、明け方に暑くて目が覚めました。 私が目を覚まして「まったく」と思っていたら、それをフォローするように風が吹きました。それで窓を見たら外がなんだか青いのです。はて、と思ってベランダに出ました。 外は思ったよりも涼しくて、いちめんの青色。 ベランダから見えるビルも、向かいの白い家も、道路も青で染まっていました。 緑色だったはずの屋根も、自動販売機も、ポストでさえ青色に見えました。 そして、これは前に

042 電車にゆられて

昨晩のことです。 仕事のあと電車に乗っていたら、私の斜め前に座っている女の子が昔の私に見えました。 ぎょっとして目をそらしました。そして、おそろしくなって女の子の方を見ることができなくなってしまい、誰も座っていない真正面をひたすら見ていました。 そこにはただの車窓と、車窓に映るちっぽけな私が映っていました。 -------------------- 思えば、私は電車とともに生きてきました。 乗っている路線や電車の種類(?)はその都度変わりますが、通学や通勤でいつも電車にゆ

040 あこがれの姿勢

またまた暑くなりました。 秋と夏が変わりばんこにその日を支配しているようです。 太陽の光が容赦なく降りそそぐお昼の駅。 電車を待っていると、汗が勝手にあふれ出てハンカチが出ばなせません。 しばらくぼんやりと暑さを感じていると、電車がやってきました。 しかし、私の目的地には行かない電車だったので、またぼんやりしました。 電車が駅を通るとき、ぴかぴかの窓ガラスが私を映します。 それを見るともなく見ていると、すこし離れた隣に女性が立っている姿も見えました。 五〜六十代の方でしょ

037 ビニール傘から見える世界

みなさんはどんな傘を使っていますか。 私は傘を三本持っています。 ひとつはグレーの生地にピンク色の花が描いてある、楽しい雨天専用の傘です。 もうひとつは白地にベージュのしましま模様が描いてある日傘です。 さらにもうひとつは、水色に白い小花がさりげなく描いてある折りたたみ傘です。 どれも三年以上使っていて、とてもお気に入りの傘です。 -------------------- 出社のときに晴れていたので傘を持って行かなかったら、退社の時に雨が降っていました。困っていると、会

036 夜に咲くオレンジ色の花

すこし暑さが戻った九月のある日の22時30分ごろ。 私は会社でいつものように残業していました。 パソコンに向かってカタカタカタ。 ときどき資料をみて考えて、あるいは計算をしてカタカタカタ。 会社の中にはすでに人がいなくて、夜だけがそこにいました。 考えながら何かを作成するのは時間を忘れるほどおもしろいのですが、知らぬ間に頭痛を引き起こしていることがあります。 そうなったら残業おしまい、の合図です。 あいたたた、と思いながら机を片付けます。 残業申請をするのを忘れていたことを