見出し画像

046 橋の上で

夜。21時くらい。
アイスクリームが食べたくなったので、散歩がてら外に出ました。
ドアを開けたとたん、ふわりと涼しい風に包まれました。
冷たいわけではないけれど、確実に夏とは違う風。

季節の変わり目は、いつもこんな風にやわらかく訪れます。

近くのスーパーに行こうとしましたが、あまりにも気持ちの良い風だったので、橋まで行ってみることにしました。私は川が好きなのです。

とことこ歩きながら、空を見たりお店の明かりを見たり。
散歩は気分転換と同時にとても癒されます。

川にたどり着く前に、歩道橋を見つけました。
歩道橋。道路の上を渡る橋。

小学生の私がとても憧れていたものです。

--------------------

私が通っていた小学校から少し離れたところに、歩道橋がありました。
螺旋階段で水色にペイントされているすてきな歩道橋でした。

集団下校をしていましたので、途中まではみんな一緒です。
しかし、歩道橋のある地点までつくと、そこから北の方向に帰る子は歩道橋を渡る、西の方向の子たちはそのまま西に向かって帰るのです。
私は西の方向に家がある子でした。

うらやましい。

それはもううらやましかったのです。
あの螺旋階段の上からどんな景色が見えるんだろう、と気になっていました。

しかし、通学路は守らなければいけない、と半ば強迫観念のあった私は、とても歩道橋を上がる勇気はありませんでした。

そこで、北に帰る友人に聞いてみました。
「歩道橋から見える景色ってどんなの?」
友人はとても真面目な子だったので、しばらく考えていました。
そして
「高くてこわい。だから私はあまり景色を見ないようにしていたの。でも、そうだなぁ、車を上から見るのはちょっとおもしろいよ。あわてているように見えるから。あとは風が結構吹くかな」
と教えてくれました。
私は、なおさら歩道橋への憧れを募らせました。

しかし、結局歩道橋をのぼる機会はなくて、大学生になりました。
歩道橋のこと自体忘れて過ごしていましたが、実家に帰る途中にその歩道橋を見て、今ならのぼれるかも、と思いのぼってみました。

螺旋階段は、思ったよりも急でした。ふうふう言いながら一番上までのぼると、風が吹きました。九月のすこし乾いた、冷たくはないけれど確実に夏とは違う風。

そして、おそるおそる下を見ると、小さな車たちがびゅんびゅん走っていました。
あの友人が言ったように、たしかに急いでいるように見えます。
実際には急いでいなかったのかもしれませんが、なぜか上から見ると急いでいるようです。


「ずいぶん急いでいるんだね」王子さまは言った。「みんな、なにをさがしてるの?」
「運転手も知らないね」


『星の王子さま』の一節です。
急いでいるつもりはなくても、いつの間にか秋の風を感じられなくなっているかもしれません。はやく、はやく。はやく帰りたい。はやく休みになってほしい。
俯瞰して見ると、それに気づけるかもしれません。

--------------------

結局歩道橋は見つめるだけで、予定通り川に行きました。
川の水はたっぷりとしていて、黒に近い紺色でした。
水はゆらゆらと流れていきます。自分たちのペースで。

星も比較的に見えていて、笑っているように見えます。
すてきな夜でした。

思ったよりもずっと涼しかったのですが、ここで決意を曲げるわけにもはいかん!とアイスクリーム買って帰りました。お気に入りの「MOW(モウ)」です。

画像1


余談ですが、私の母はずっとこのアイスクリームのことを「WOW(ウォウ)」だと思っていたようです。

今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?