「良い記者・良いメディア」の条件は変わっていく。事業会社で経済メディアを立ち上げた僕が信じて疑わないこと
良い記者とはすなわち、ネタの取れる記者。
新卒でNHKに入ったのはもう10年以上も前になります。
初任地の静岡放送局で社会部出身のデスク(師匠)に日々鍛えられ、毎日のように午前2時まで局近くのモツ焼き屋でありがたい話を聞いていた僕には、そんな常識が刷り込まれていました。
「ジャーナリズムとは、報じられたくない事を報じることだ。それ以外は広報にすぎない」
ジョージ・オーウェルが残したとされる言葉が僕は好きです。自分自身は特ダネ記者からだいぶ距離があったような気もしますが、それでもたまに出す渾身のネタが取材(監視)対象に文字通り突き刺さり、普段ぼんやり以上の解像度では捉えていなかった「社会」が突如実体を伴って動き出すのを感じてきました。
やはり特ダネは偉大なのです。
最近では、NHKの出したジャニーズ会見「NG記者リスト」がSNSを始め世論の風向きをガラッと変える様を多くの人が目撃したことでしょう。
ですが、記者はもう、特ダネを狙い続ける孤高のハンターではいられません。
報道に携わるおそらく全ての方が感じていることでしょうが、旧来のジャーナリズムが生き場所としてきたテレビ・ラジオや新聞、出版は「マス」に届かなくなってきました。
その解決策として大手メディアはデジタル化を敢行し(出来ていないところもあるようですが)、デジタルに特化したニュースメディアも一時脚光を浴び、記者の流入が進みました。
その結果、報道を取り巻く状況は改善されたのでしょうか。
答えはノーです。
デジタル化の先に待っているのは、デジタル広告に依拠するか有料課金かの分かれ道です。そのいずれも、全国に取材網を持ち、時として数ヶ月に及ぶ裏取り取材やロケを必要とする大手メディアを支えきれません。
図体の小さなデジタル専業メディアはなんとかなるかもしれませんが、それでもPV数を積み増すための「必要悪」として低質なコタツ記事に頼らざるを得ない側面があります。
つまり、報道は持続可能(サステナブル)な状態にはない、ということです。
この状態で、記者はいつまでも特ダネを狙う存在「だけ」であり続ける気でしょうか。
僕は、良い記者の条件は変わっていくと確信しています。
これからの良い記者は、報道に携わるものの責任として、報道を持続可能なものとし、次代へ引き継いでいける記者です。
そして、良い記者の成果の集合体が「良いメディア」になる。
つまり、伝統的なジャーナリズムの使命を果たしながらもビジネスと強固に接続され、持続可能性あるメディアです。
答えを探しに事業会社へ
僕がこんな考えを持つようになった原点は、NHKで5年半勤めた後に移籍したデジタルメディア・ハフポスト日本版にあります。
ハフポストの仕事は人生で経験がないほどに楽しかった。けれど、その規模の小ささゆえ、メディアの抱える課題が冷たい波のように記者一人一人の足元に押し寄せる職場でもありました。
メディアの課題とはつまり、記事の質を担保することと、PVを前提とした収益モデルとの相剋です。
自分だけが、と卑屈になるつもりはありませんが、担当だった中国分野は魂を捨てればPVの取れる領域です。それがどういうものかはあえて書きませんが、現行のビジネスモデルのまま、きちんと取材したり文献を読みこんだりした記事を出し続けるのは厳しい、という現実に直面しました。
2022年12月。楽しくてしょうがなかった約4年間のハフポスト生活を終えることにしました。
ハフポストを支えてくれた「広告とPV」モデルを否定するつもりは毛頭ないけれど、そこだけに頼らない形でニュースコンテンツを出し続ける方法はないものか。
そんなことを考えていた僕に「スタートアップ関連のメディア事業を任せる人を探している」と打診が来たのです。
デジタルメディアの新しい形を探したい。その一心で転職を決めました。
事業会社に移籍し、名刺から「記者」の肩書きが消え、報道から離れることになりました。少なくとも今はこれで良いと思っています。
「報道のマネタイズ」は難易度マックスです。いきなり成し遂げるのは僕には無理です。まずは「経済コンテンツ」に絞ってビジネスとの接続を試みようと思ったからです。
ゼロからメディアを作り始めたのは2月のこと。9月上旬にローンチが叶いました。
「STARTUPS JOURNAL」と言います。
「100か120か」という発想、というか実験
新メディアが目指すのは、当然、質の高いコンテンツとビジネスの両立にあります。
ここで言う「ビジネス」とは何か。
STARTUPS JOURNALは、国内スタートアップ企業の情報を網羅するデータベース「STARTUP DB」に紐づくメディアです。
データベースとの連携が強みであると同時に、データベース事業の成長に寄与することが使命なのです。
そのために打ち出したのが「100か120かモデル」です。
デジタルメディアは2パターンに分かれます。まず、日経新聞や朝日新聞のデジタル版のように、有料会員のみ記事を公開するモデルです。お金を払わない限り得られる情報量は「0」です。
もう一つはYahoo!Japanやハフポストのように記事全文を無料公開し、広告で稼ぐパターン。この場合、読者が得られる情報量は「100」です。
STARTUPS JOURNALは、誰でも記事を無料で読めるようにしています。加えて、記事に登場するスタートアップや投資家にデータベースのリンクをつけています。読者は無料(ないしは法人向け有料)会員に登録すると、そのスタートアップの資金調達情報など、成長性に関わるデータが閲覧できるようになります。
無料公開記事で「100」、データベースで「120」の情報が得られるという仕組みです。
これが全てではないにせよ、まずはこの戦略がどの程度機能するのか、さまざまな切り口の記事を出しながら数字を測っています。
【編集者募集】挑戦者しか見られない景色を
正直、今やっていることが絶対に正しいとは全く思っていません。
試行錯誤の末に「違ったね」となり、違う施策やKPIを追求することも十分にあり得ることです。
事業会社にきて一番辛いのは、「職域としてのメディア人」の存在意義を常に問われ続けることです。
NHKやハフポストでは、(個々人のパフォーマンスはともかく)「記者・編集者はいらないね」という議論は起こり得ません。ところが事業会社では、事業成長にどう寄与したのか・するのかが当然ですが問われ続けます。
STARTUPS JOURNALも、それに携わる僕も、存在意義を証明するための日々を送っています。結構しんどいです。だけど、新しいことをやっている自信もあります。
この挑戦の日々を共にしてくれる仲間と出会えることを願っています。
STARTUPS JOURNALはローンチ後、読者数を伸ばし続けています。
とはいえ、まだまだ数字としては弱すぎると僕は思っています。現在、僕の一馬力でコンテンツを回していますが、仲間が増えることで成長が加速することは間違いありません。
そして、増やした数字を事業成長へ繋げていく。
STARTUPS JOURNALを成長させることは、同時に「メディアの答え」を探す作業でもあると僕は思っています。
「これからのメディア」を語り合い、居酒屋の評論家になるのではなく自らが挑戦者であり続ける。そんな仲間を募集しています。
具体的には、こんな方と働きたいです。
応募はこちらよりお願いします。
https://www.wantedly.com/projects/1109134
正解のない挑戦ですから、不安に駆られる時もあります。それでも、真っ先に挑戦し、失敗し、屈辱にまみれ、立ち上がり、改善し、成功の種を掴み取った人間にしか見られない景色があるはずです。
僕はそれが見たい。一緒に戦いましょう。
高橋史弥
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