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ものかきのおかしみと哀しみ

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すれ違った人たち
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2020年7月の記事一覧

あの夏のライオン

あの夏のライオン

僕には好きなライオンがいる。いや、正確にはいた。

もしかしたら「好きなライオン」というフレーズは、適切ではないのかもしれない。世の中一般にライオンはそうした形容詞を与えられる対象ではないからだ。

まあ、ともかく僕はそのライオンが好きだった。

その日も、久しぶりに動物園に行くと、ライオンがくたびれた表情で僕を待っていた。

「どうしたの、元気ないね」僕は言う。
「歳だからね。暑さがあとからから

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鳩たちのVシネマ

鳩たちのVシネマ

名前のない場所が好きだ。知ってる人は知ってるけれど、ほとんど誰も気にしたことがないエアポケットのような空間。
 
なんで、そんな場所に惹かれるのかは自分でもよくわからない。たぶん、馴染むからだと思う。身体的にも魂レベルでも。そこでは名前も知らない人たちが、名前のない時間を過ごしている。そういうのが好きなのだ。
 
ビルに挟まれた昼下がりの小さな広場に僕のひとときの居場所を見つける。

ささやかな植

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手紙は食べるが日常を切り取れないヤギ

手紙は食べるが日常を切り取れないヤギ

日常を切り取るのが苦手だ。まあ、これはわりとメンズに共通する課題なのかもしれない。もちろん、そうじゃない人もいると思う。

だとしたら課題じゃなく個の問題だ。

前にも書いたかもしれないけど、いわゆる「日常の日記」みたいなのが絶望的に書けない。ライターなのに? 

日常と非日常の閾みたいなところを書くのは好きだし、むしろ僕にとってはそっちが日常に見えることすらある。でも、そういうのは基本的にあまり

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ヤギは海を渡るのか問題

ヤギは海を渡るのか問題

どんな世界でも所有争いはある。気持ちの中の縄張りも含めて。

先住民と開拓者。古参と新規。コアなファンとにわか。それぞれが自分の領分とか、自分の環境の快適さを守る主義主張とかを持っていて、そこに侵食してくるものとぶつかったり、直接ぶつからなくても違和感を覚えたりする。

noteの街でもあるのかもしれない。「あるのかも」みたいにふわっとした書き方してるのは、自分ではそこまで意識してないから。

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福毛が大変申し訳ありません

福毛が大変申し訳ありません

まず最初にお詫びをしないといけない。

何にお詫びすればいいのかもよくわからないのだけど、もしかしたら読む人を不快にさせたり気持ちよくさせてしまうかもしれない。

それぐらいよくわからないものを書こうとしている。

予防線は無事に張ったので書き進める。近所のホームセンターに予防線を売ってるかと思って買いに行ったら売り切れてたので、昔、犯人を倉庫に拉致したときに使ったキラキラテープの残りを代用した。

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会話と対話の違いについて

会話と対話の違いについて

雨も降り続いてるし仕事も降り続けてるし、なかなか晴れない毎日が続いてる。

まあ、それ以前に禍のことがあるからみんなそれぞれスッキリとはしないものを抱えてますよね。たぶん。

でもそんなこと言ってても仕方ないので、今回は最近つらつら考えてることを。

何度か自分のnoteでも書いてるんですが、僕はライターをやっていながら「会話」が苦手なんですね。そもそも会話ってなんだろう。そこからよくわかってない

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正しいスナックの過ごし方がわからない

正しいスナックの過ごし方がわからない

未だにスナックで飲んだことがない。いい大人なんだけど。

そう、あの独特の狭い扉を開けたらカウンターの向こうにママが待ってる、大人の楽しいお店。中学生のときに鹿児島のスナックでご飯を食べさせてもらった経験はあるけど、それはたぶんカウントされない。

世の中の人は、いつスナックデビューするのだろう。

酔っ払い上司に連れられてよくわからないまま「こいつ新入り。頼むよ、これからお世話になるから」とか言

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書くことで迷子になったひとへ

書くことで迷子になったひとへ

なぜ文章を書くのだろう、とたまに思う。

ずっと文章を書いている。純粋な仕事でも、その枠を超えて生き方としての仕事でも。

一応、プロとして名刺を持って文章を書くようになってまあまあ長い。いや、べつにいまの時代だから物理的な名刺はあってもなくてもいいし、それより「自分の見せ方とか見え方」のほうが大事って話もあるのだけど。

で、ライターの場合、書き続けてポジション的に「偉く」なることはごく一部の書

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裸の幽霊と会った話

裸の幽霊と会った話

こんなふうに書くと、まるで怪談のようなのだけど。残念ながらそういうのではない。そっちを期待した人は、そっとページを閉じてもらえれば幸いです。

昔から「なぜ幽霊は服を着ているのか問題」はずっとある。一部ではそこの考察が熱心になされているらしい。言われてみれば不思議だ。

だけど、僕が出会ったのはこれから夏のシーズン本番を迎える幽霊ではなく、どっちかというと概念としての幽霊だ。背筋が凍る系ではなく、

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歩道橋を釣りに

歩道橋を釣りに

梅雨がいつまでたっても晴れない。もしかしたら僕が知らないだけで、太陽が腐海に沈んだまま眠り続けているのかもしれない。

太陽が眠ったままの東京。いい加減、傘をさすのにも飽きてあてもなく甲州街道沿いを歩いていると、不意に歩道橋に話しかけられた。

「よく降りますね」

こういうときに何か気の利いた会話ができればいいのだけど、あいにく「会話」そのものがあまり得意ではない。それに、歩道橋と共通の話題って

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まるではじめて見たもののように書く

まるではじめて見たもののように書く

noteのサークル「これからのライター」で記事を書きました。
「まるではじめて見たもののように書く」というテーマです。

最近noteの一部界隈で「イカ」を見かけることがちらほらあったかも。じつは、このイカは豊洲でもあまり入荷しないイカ。なぜならほとんど知られてないイカだから。

でも、このイカは「ものを書く」人、何かをつくり出す人なら一度食べてみてもいいかもしれない。僕も食べてみたら結構はまりま

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人なんてわからない前提で話したいことがある

人なんてわからない前提で話したいことがある

端っこにいる人生だった。いや、比喩的な意味ではなく。比喩だとしてもおもしろくもなんともない。

なんていうか、そもそもの自分という個体のアティテュードというか仕様がそうなってる。しょっちゅうそれ言ってる気もする。

ここで、あたまのいい人は「おや?」と思ってるかもしれないけど、アティテュードと仕様を並列に表記してる時点でこの人おかしい。なぜおかしいのかは各自、調べろくださいなのだけど。

まあ、少

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