恋をしていた 1

わたしは、彼と両思いだったけれど、でも決して彼女じゃなかった。半年も一緒にいたけれど、お互いの友達にも公認の仲だったけれど、それでも約束はなかった。

彼女になれない関係を、哀れだと思いますか?
そんな恋、本物じゃないと思いますか?
わたしは、都合よく遊ばれているんでしょうか?

だって好きだから仕方なかった。どんなに苦しくても、わたしは自分の気持ちを受け止め続けるしかなかった。

わたしだって最初は遊びのつもりだった。遊ばれても良いとも思っていた。別に守ってるわけでもないのに、付いて回る経験のなさっていうこのコンプレックスを早く捨ててしまいたいって思っていた。

でも、そんな風にはいかないのが、人を好きになるってことなんですね。
わたし、未熟すぎた。そんなことも知らなかった。


やってしまった、と思った。苦しい、と思った。

始まる前からわかっていたはずなのに、割り切ろうとしていたはずなのに、だから寂しがるにはまだ早いはずなのに、全部もう遅かった。私はすでにひとりでに溺れていた。溺れていると気づくのにも時間がかかった。

今までに経験した好きとは何かが違って、こんなのしらないとおもった。だから私はきっと本気で好きではないんだと一人で納得していた。

しかしどうやらそれは違ったみたいで、二週間の旅から帰って来ると、寄り添って、あるいは抱きしめられて眠る感覚が思い出されてしまった。

二週間ぶりにあなたに抱きしめられて眠った翌日、自宅への帰り道、ほとんど丸一日食べていない私の体は、それでもなにかでひたひたになっていて食欲を失っていた。現実も未来も淋しくて、苦しかった。


別れを知っている恋だから

彼は初めより慎重になっていたと思う。私のことを何度も可愛いとは褒めても、好きとは言わなくなっていた。

好きという言葉がなければ、私たちの関係なんて、なんでもなくなってしまうのに。私だけが両思いだと信じているなんてことは、一番辛いことなのに。

わたしの出口を失った思考が、好きということを私から躊躇していたからかもしれない。あなたは探るように私に日本に帰りたいのか聞いて、それでいて私があなたと離れたくないなんていうと、自分のことなんか寂しがらなくていいなんていうひとだった。君はただ留学先でstupid(ばか)になっているだけだと。

彼の一言一言で、私の中心のような1部分1部分がしんと温度を失って、重く沈んで行くのを初めて感じていた。しまいには駄々っ子のように、ただかなしいと目も合わせずに繰り返すしかなかった。わたしはいろんなことすべてが恐かった。

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