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【小説】私は空き家(豊中市築47年)1

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わたしは、大阪府豊中市の築47年の空き家だ。
 
今から3年前のある日、ガスが閉栓された。
「最近、1日中電気が点かない日がちょこちょことあるな」と感じていたが、「旅行か何かかな」と思っていた。
それがまさか、閉栓とは。
 
あの日以降、時折、月に一度くらいの頻度で、ご主人様の娘さん――まさみさんが昼間に来て、換気と貴重品探しをしている様子。
天気の良い昼間に来て、ため息をつきながら作業し、夕方頃に帰る、という繰り返し……。
 
わたしは、「売却されるのか?」「次のご主人様はどんな人だろう?」「また昔のように、にぎやかな毎日が戻ってきて欲しい」と期待していた。
ところが、部屋の中はそのまま。タンスも本棚も、寝室の布団も、テレビ台の上の写真も……。
3年前のあの頃と、ほとんど変わらない光景のまま……。
 
そうか。わたしは使われなくなったのか。
荷物や家具は昔のままだけれど、ここに住む人がいない。
これが「空き家になった」という事か。
巷でよく言われている「空き家」がこれか。
わたしは必要とされなくなったという事か。
ところどころ傷みは多少あるけれど、まだまだ元気だと思っていた。
荷物だけがある状態。
夜、電気が点かない状態。
人の笑い声が聞こえない状態。
人から必要とされていない状態。
家としての役割が終わったのか? まだまだ元気なのに……。
 
これからどうなるのだろう? いつまでこの状態が続くのだろう?
去年の台風の時は、心底不安になった。
玄関のポストにはチラシが溜まってきている。
次にまさみさんが来るのはいつだろう?
泥棒が入ってきたりはしないだろうか……。
 
わたしは、まだまだ元気だ。駅からは少し離れた場所にあるが、現役だ。
けれど、周囲の家にくらべたら、何となく汚れてきている。
使ってもらえないというのは、こんなに老いるスピードが早いのか……。
これからどうなるのだろう?
待つしかない。待つしかない……。



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『私は空き家』とは
「空き家」視点の小説を通じて、【株式会社フル・プラス】の空き家活用事業をご紹介いたします。
※『私は空き家』はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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