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【小説】私は空き家(豊中市築47年)2

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今日は朝から、何か騒がしい。
まさみさんが来て、部屋の換気に加え、掃除をしている。
程なくして、3名の比較的若い男女がやって来た。
スーツ姿の3名は、礼儀正しく、笑顔の素敵な人達だ。
男性2名が各部屋の採寸や、写真撮影を行っている。

女性1名が、居間でまさみさんと話を始めた。
どうやら、ご主人様はご高齢の影響で、老人施設に入所されているらしい。
少し認知症も患っているが、まだお元気であるとの事。
まさみさんが、ぽつりぽつりと、重い口調で言う。

「この家は使わなくなったけど、売却は今のところ考えていません」
「けど、1日中人気のない建物は、ご近所にとって心配の種になるし」
「災害が起こってこの家が崩れたりしたら、所有者の責任になるんやろ? 不審火なんかの防犯面も心配やし……今のままで良いとは、思ってないんやけど」

そう不安がるまさみさんに、スーツ姿の女性は、

「空き家は大切な資産です! 上手に活用することで、資産運用になるんですよ」
「リフォーム工事をして人に貸す、賃貸経営を行う形での活用をお勧めします」
「家賃収入が、ご家族の皆さんの将来の備えにもつながりますし」
「人に貸すことは、家の保全にも良いんですよ。建物、特に設備は、使っていない状態では劣化が進みやすいんです」

と熱心に勧めている。
 
この家(わたし)を人に貸す――まさみさんも、考えた事はあるらしい。
ただ、日々の多忙さや、何より資金の問題がネックになっている様子。

「リフォーム代、いくらくらい必要なん?」
「家の中の荷物はどうすればいい?」
「家賃、毎月ちゃんと入ってくるんかな?」
「借りてくれる人とのやり取り、気が重いわ。トラブルが起きたら、どうしよう……」
そんな様々な不安を、まさみさんはスーツ姿の女性に話した。
 
「チェック項目の確認作業が終了しました」
採寸と写真撮影をしていた2名が声を掛けてきた。作業が終了したようだ。
図面・リフォーム工事項目・工事金額・想定賃料などをまとめた『ご提案書』を作成して2週間後に持参すると約束し、スーツ姿の3名は帰っていった。

1人残ったまさみさんは、今ひとつ浮かない表情だ。
「主人は何て言うかな……」
まさみさんはお金の事について、夫に相談することを心配している様子だった。
「兄さんにも相談しないと」
そうつぶやいたまさみさんは、戸締りをして帰っていった。
 

 
あれから10日。一度も電気が点く事なく、時間だけが過ぎていった。
静かな毎日は、昔のにぎやかだった頃を余計に思い出させる。
確か、ご主人様が30歳。2人目のお子さんである長女を授かった頃、私が建てられ、ご主人様の自宅となった。
その長女が、まさみさんだ。
数日後に、以前来ていたスーツ姿の人たちが、また来るのだろう。
これから、わたしはどうなるのだろう。
浮かない表情だった、まさみさんの横顔を思い出す。




『私は空き家』とは
「空き家」視点の小説を通して、【株式会社フル・プラス】の空き家活用事業をご紹介いたします。
※『私は空き家』はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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