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淺井裕介in 武隆ランバ国際大地芸術祭2019

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野生の絵画──淺井裕介の泥絵について・肆

野生の絵画──淺井裕介の泥絵について・肆

ただ、淺井裕介の作品に通底する神話性のうち、わたしがもっとも強調したいのは、陰陽五行との関係性である。これまでレヴィ=ストロースの思想や理論を手がかりに、淺井の泥絵を詳しく考察してきたが、淺井の泥絵の本質的核心がレヴィ=ストロースの言う「野生の思考」にあるとしても、それはあくまでも西洋近代に由来するパースペクティヴだった。「野性の思考」が人類に普遍的に共通する、まことに原始的で根源的なものであるな

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野生の絵画──淺井裕介の泥絵について・参

野生の絵画──淺井裕介の泥絵について・参

洞窟壁画、縄文土器、そして小宇宙──。《空から大地が降ってくるぞ》の完成を初めて目の当たりにしたとき、わたしの脳裏に浮かんだ言葉である。いずれも原始的ないしは根源的なイメージを醸し出す言葉だが、3つの言葉すべてに通底する要素を導き出すとすれば、それは「神話性」になると思う。神話とは、一義的には神聖な物語を意味するが、その詳しい内容については諸説があり、いちがいに定義づけることはできない。だが、おお

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野生の絵画──淺井裕介の泥絵について・弐

野生の絵画──淺井裕介の泥絵について・弐

「野生の思考」とは、構造主義を提唱したことで知られる、フランスの人類学者、レヴィ=ストロース(1908-2009)の思想を示す主要な概念である。レヴィ=ストロースはアフリカやオーストラリアなどの、いわゆる未開部族の社会調査をとおして、西洋社会からすると後進的で未熟とされがちな非西洋社会に独自の合理性、すなわち「野生の思考」が一貫していることを解明した。たとえばトーテミズムは、ある特定の社会集団と特

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野生の絵画──淺井裕介の泥絵について・壱

野生の絵画──淺井裕介の泥絵について・壱

地球全体、宇宙全体を成立させ、全存在の根拠となる「神」を表すことこそが、芸術家としての自分の表現であり、使命である。 ──長谷川潔

わたしが初めて武隆を訪れた2016年のこと。暗雲が立ちこめる不穏な天候のもと、険しい山道を縫うように車で走っていると、不意に渋滞に巻き込まれた。何でも、折から吹き荒れていた暴風が電線や樹木をなぎ倒し、車道を塞いでしまったので、車が一切通行できないという。消防の到着

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