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人新世,ゲーム,フィクション,小さなもの,大きなもの─「design alternatives」12月号感想

「rhetorica」など興味深い本を制作しているseshiappleさんらによるマガジン「design alternatives」の12月号を拝読したので,簡単に感想をば

「design alternatives」は国内外のオルタナティブなデザイン事例を紹介するマガジンで,説明文では「都市・建築〜」と書かれているように僕の専門である建築分野も関係してくるので,要注目かなと.

12月号の特集は「2019年のオルタナティブなデザイン」ということで,編集部がディレクションした選者により2019年に印象的だったデザインが選定理由と共に挙げられています.

テーマは「人新世のビジョン」「人新世のプラクティス」「都市と社会の未来」「身体と技術の未来」.昨今話題になっている「人新世」がポイントとなっております.筆者はあまり動向を追えていないのですが,ちゃんと見なきゃですね...

人新世のビジョン

ここではデザイン理論家ベンジャミン・ブラットンの名がふたつ挙がっています.スペキュラティブデザイナー川崎和也氏はブラットンが著した惑星的なデザインの意味を問う『The Terraforming』,編集者の岡田弘太郎氏は同著の『The Stack』.どちらも地球レベルの思考を問うような内容となっており,モスクワの研究機関で教鞭を執る同氏のロシア宇宙主義的な(日本ではあまり見られない)壮大な構想が伺えます.
川崎和也氏が編者を務めた『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』でもブラットンの主張である「スタック」が引かれており,注目具合が伺えます.
日本語記事でその思想の一端を知るのであれば,

か『SPECULATIONS』を読むのが入りとしては良いのかもしれません.


人新世のプラクティス

続くのはビジョンからプラクティスへ.
ぱっと見抽象的な議論を具体へ落とそうという意図が伺えます.
恥ずかしながら初見のプロジェクトばかりなのですが,日々消費する日用品を「使って捨てる」から「詰め替えて使い続ける」へシフトするサービス「Loop」や海洋プラスチックごみなどをリサイクルしたものを使用した決済端末「OceanReader」など私たちが普段接するありふれたものの先に惑星レベルの思考を匂わせるもの.タンパク質性の新素材を使用した「MOON PARKA」などの新素材を使った製品はバイオ技術の発達によりさまざまな新しい建材の登場が予感される建設業界も注目するべきものかもしれません.
森美術館で開催中の「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」においてもバイオ技術の発展は人間の道徳観や倫理観を再考するための新しい素材を用意していました.

こうした実践が増えていくことで私たちの思考は更新されていくのでしょうか.


身体と技術の未来

惑星レベルの思考の後は私たち人間自身がどうなっていくか.SF作家の津久井五月氏が挙げているPS4ゲーム「DEATH STRANDING」はまさに惑星レベルの大変革が起こった後で人間が「リアルに」どうやって生きていくかを描いたゲームと言えるでしょう.

その実感を高めるために実装されたゲームデザインは私たちが忘れていた感覚を思い出させてくれます(なぜなら下手したら「歩くのもままならない荒道を歩く」なんて経験をしたことすらない人だっているのかもしれないのだから).
ただの遊びとして揶揄されてきた「ゲーム」や「フィクション」が私たちの現実を変質させてしまうほどのものになる.それはゲームデザインもそうでしょうし,VR/ARと言ったXR技術をはじめとした技術的な発展によっても加速することで,注目すべき事態と言えるでしょう.


都市と社会の未来

最後は建築・都市をテーマとしたもの.
選者と選定したものを選り分けてみると,建築出身のデザイナーである金田ゆりあ氏は市民参加型のデザインの道を示したAssemble,建築家の山川陸氏はボルトの一本までのエレメントを等価に扱い成立された板坂留五氏の「半麦ハット」,編集者の春口滉平氏は都市・建築の批評のプラットフォームであった「10+1 website」の終了,デザインリサーチャーの浅野翔氏はユニバーサル・ベーシック・インカムを唱えたアンドリュー・ヤン,アーティスト/キュレーターの島影圭佑氏は「磯崎新の謎」展を挙げています.

これを見ると建築を大きなバックグラウンドとして掲げている選者は「小さなもの」,それ以外の方は「大きなもの」を対象にしているように見えます.
この状況がどういうことを意味するか.建築業界の議論もどちらかというと「小さなもの」の方がよく見られるように思えますが,他業界の人が注目しているのは別の部分.
都市・建築の批評のプラットフォームであった「10+1 website」が終了する今,その視点の違いをどう繋げていくのか(繋げる必要はあるのか),これから考えるポイントになるのでしょうか.

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