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「関係性」について─『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』

百合―女性間の関係性を扱った創作ジャンル。創刊以来初の3刷となったSFマガジン百合特集の宮澤伊織・森田季節・草野原々・伴名練・今井哲也による掲載作に加え、“ソ連百合”として話題の南木義隆「月と怪物」、新鋭女性作家の共作「海の双翼」、『元年春之祭』の陸秋槎が挑む言語SF「色のない緑」、そして『天冥の標』を完結させた小川一水が描く新作宇宙SFの全9作を収める、世界初の百合SFアンソロジー。

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なにやら「百合SF」というジャンルがはやっていて、SFマガジンでは「百合特集」までやったとのこと。そんなSFマガジンからいくつかと書き下ろしが入った百合SFアンソロジーを読んだので、簡単に雑感。
表紙は『ハーモニー』でおなじみのシライシユウコさんですよ。

キミノスケープ/宮澤伊織

だれもいなくなった世界で「あなた」が旅をしている。戦争があったわけでも、ウイルスが発生したわけでもなく、「ただ人がいなくなった世界」には食料は潤沢にあるし、生きるには困らない。ただ、だれもいない。
そんな世界で「I'm fine」というメッセージを見つけた「あなた」はそれを追いかけて歩を進めていく。

特になにが起こるわけでもない、身の危険を感じさせる障害があるわけでもない(ただ世界は徐々に壊れていっている、という描写はある)世界が静かに広がっていく。
「百合」をものすごく原理的に考えて「なにかとの関係性」とするなら、ここには「あなた」以外の登場人物は存在しないけど、世界とは関係性を持っていると言える。


四十九日恋文/森田季節

死後四十九日までは死者とメールでのやりとりが可能な世界。ただし、メッセージの可能な文字数は四十九文字からスタートして一日一文字減っていく。最終日に可能なメッセージは一文字だけとなる。

考えてみれば、メールがどのように飛ばされどのように届けられるか明確なイメージを持ったことはない。この物語で死者とやりとりが可能な端末はかつてのガラケーだが、初期のメールはまるでメールが空を飛んでいって届けられるアイコンアニメーションが存在していた(そして「スカイメール」だの呼ばれるものがあったような)。
実際にやりとりはしてるものの相手がどのような状況にあるかはわからないのは、メールの醍醐味でありデメリットでもあるのだろう。限られた文字数で本当の別れまでを過ごすふたりの姿を見ながら、かつての情報通信環境もこのくらいの速度館だったようなという不思議な懐かしさを感じた。


ピロウトーク/今井哲也

マンガ。並行宇宙の存在が当たり前かのような世界で、「先輩」は前世の記憶を保有している。しかし、先輩はお気に入りの枕がないと眠れず現世では一日も眠りに落ちたことがないという。そこで、「先輩」と一緒に枕を探しにいく旅に出るが...

存在のありようは違えど「欠落を埋めてくれる」ものとしてあるなにかとの出会い。並行宇宙があることによって、それが深まる。


幽世知能/草野原々

もうひとつの未知の宇宙である幽世の情報処理能力を利用したコンピュータ、幽世知能が一般化した世界。
幽世の出力が不安定だと神隠しが起こる、という。
そんな世界での少女のふたりの掛け合い。とかちゃんと、とかちゃんの妹を殺したアキナ。とかちゃんはなぜ妹を殺したのかを問うが...

この世界にいる限りは、人は出来事に対して「理由」を求める。「理由」がなければ「理解」はできないからだ。そうなると、「理由」のつけられない行動はどうなるのだろうか。この世界では「理由」が伝えられないことによるディスコミュニケーションが多く存在する。それは「この世界であるから...」


彼岸花/伴名練

「死妖」という吸血鬼的存在が跋扈する世に生きる二人の少女の手紙のやりとり。

言葉選びやテンポが丁寧で美しい。浅草十二階なども登場するが、「代血」と呼ばれる技術によって動かされているなど、ユークロニア小説の香り。
伊藤計劃が『屍者の帝国』などを思い出す。著者の「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」でもジェノサイド・エンジンとか恐竜骨格とかのガジェットが登場した。

今度でる『なめらかな世界と、その敵』も面白そう。


月と怪物/南木義隆

もとはpixivで公開されたもの。

ソ連を舞台として、姉妹の顛末を描く。ソ連の宇宙開発に関連した実験施設の話やロボトミー手術など香しい設定の数々。


海の双翼/櫻木みわ×麦原遼

ちょっと情景が頭に入ってこなかった。また読もう...


色のない緑/陸秋槎

言語を扱う人工知能を取り巻く物語。
機械翻訳された文章を手直しする仕事などリアリティのある設定。人工知能が発展し続けることで、逆説的に増えていく「ブラックボックス」に対して人間はどう立ち振る舞えるのか。そのアンビバレントな未来が見える。


ツインスター・サイクロン・ランナウェイ/小川一水

元気系娘とクール系娘のコンビがある惑星で繰り広げるドタバタ漁師劇(?)なんて映像映えしそうな設定なんだ...
最後に楽し気なものが読めて大変よかったです。

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福田晃司.建築専門誌の編集者です.91年生まれ.デジタルデータと建築が融合すると何が起こるのかをウォッチングしたく,Unityなどをいじりつつネットサーフィンする日々.xRと建築のコミュニティ「xRArchi」/計算分離派
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