見出し画像

長期経営計画のすすめ Ⅳ 企業戦略_一次長期計画 4. 成長戦略を構想する


Ⅳ 企業戦略_一次長期計画は、企業戦略の大枠を策定するフェーズになります。今回は成長戦略を構想します。より実務的なイメージをもっていただくために、前半はケーススタディを、後半にポイントを記述していきます。


1. ケーススタディ

設定

明智「本日の会議のアジェンダは成長戦略の構想です。これまで成長戦略に関する議論は行なってきていません。まずは前山さんより成長戦略について説明をお願いできますか?」
前山「はい、シンプルに説明すると、成長戦略とは企業や事業がより売上を拡大していくための方針です。有名なフレームワークがアンゾフの成長マトリクスであり、市場浸透戦略、新製品開発戦略、新市場開拓戦略、多角化戦略の4つの方針になります。」
「前回、事業ポートフォリオを決定した際、専務よりオートメーション事業とモニタリング事業の提案がありました。両事業ともに新製品開発戦略にあたります。」
専務「新規事業において新市場開拓戦略も検討したのですが、ビジョンによって対象となる市場が一定限定されたことと、新製品開発と新市場開拓の難易度を考えた時、市場を創る方が難しいと感じたため、新製品開発戦略を中心に検討しました。」
社長「既存の人材紹介事業は市場浸透戦略ということかな?」
前山「はい、その通りです。人材紹介事業も更に成長させる方針でしたので、ここも事業戦略の再構築が必要になります。」
「ただし成長戦略として、アンゾフの成長マトリクスを参考に事業を検討するだけでは、少し物足りないと考えています。」
明智「それはどうゆうことですか?」
前山「このフェーズでは企業戦略として成長戦略を検討します。よって市場と事業を組み合わせた成長戦略を立てることをお勧めします。図解して説明します。」

成長戦略の構想(案)

前山「わが社はこれまで、人材紹介事業で病院市場①を開拓し、そのマッチング技術を用いて、歯科市場②、薬局市場③を、約24 年ほどの期間で開拓してきました。今後、立ち上げていくオートメーション事業とモニタリング事業は、おそらく3つのどこかの市場から着手して、そこで得た知見を元に他の市場に展開する方法になると思いますが、すでに人材紹介事業での既存顧客でもあるので効率的でしょう。このように縦と横のマスを埋めていくイメージで事業展開を進めると、また新たな事業の構想ができたり、新市場が開拓できたりするでしょう。1つのマスでの努力と知見を利活用するというイメージを全社で共有することで推進力が高まり、成長が加速していく成長戦略になると考えています。
専務「とてもよく理解できました。なんとなく人材紹介事業の展開方法をモデルにしようとは思っていましたが、このように明確に示して全社に共有すべきですね。」
社長「この成長戦略を推進するには、組織の作り方も重要になりそうだね。」
専務「私も組織作りは重要だと思っています。この後の『8. 一次組織・TOPマネジメントを決定する』のパートにて議論したいと思っています。』

(この後、活発な議論が行われ、前山が示した成長戦略の図解を元に全社に示していくことで決定する)


2. 成長戦略を構想するポイント

成長戦略を構想する上で、ケーススタディでも紹介されたアンゾフの成長マトリクスは有名です。経済産業省 中小企業庁が紹介している下記のWEBサイトでとてもわかりやすく説明されています。


私自身のこれまでの経験から多角化戦略は本当に難しいと実感しています。ある機会があって新たな顧客(市場)と出会い、そこで現状の問題を聞いて、課題解決できるかもしれないと思い、事業開発をはじめたのですが、市場のことを深く理解できていないために表面的な課題解決しただけで根本解決に繋がらなかったり、その問題を持っている顧客が少なかったり、解決に必要な技術レベルが高すぎたり、失敗事例がどんどん浮かんできます。

新製品開発と新市場開拓を比較すると、今ある製品を別の市場に持っていけば良いので、新市場開拓の方がうまくいくと想像するのですが、こちらも私の経験からそもまま持っていってうまくいった事例はなく、やはり顧客(市場)が変わると問題は異なり、そうなると課題解決のために製品に改良を加える必要が出てきます。表面的な課題解決になり、コストを最小限に抑えようとするために中途半端な改良となってしまい、売れないという結果になります。

新製品開発では、すでに既存事業で顧客との関係性は一定あるため、顧客の問題を深く把握することができます。顧客数もあるので市場規模の実態も把握することができます。また自ら保有する、もしくは入手できる技術で課題解決を主体的に企画しているために技術問題で躓くケースも少なく、うまくいくことが多いと思います。

アンゾフの成長マトリクスは市場と製品の2軸で方向性を示したフレームワークです。このフレームワークをより良く活かすためには、ケーススタディで図解したように新製品開発と新市場開拓を組み合わせながら、マスを埋めていくイメージを持って成長戦略を描いていくことで、より成功確率を高め、より少ない経営資源で事業を拡大していくことが可能になっていきます。

ビジョンを踏まえ企業ドメインを設定し、ミッションを踏まえて事業ポートフォリオを組み、どんな組み合わせて成長戦略を描くのか、これが長期経営計画の策定で最も重要な企業戦略の軸となります。

今回は以上となります。次回は「Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画 5. 新規事業・M&A戦略を決める 」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略 _ 現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 人的資本を分析する
8. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略_ 現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する
3. 外部環境を分析する
4. 現状分析のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める
3. 事業ポートフォリオを決める
4. 成長戦略を構想する                           ←今回
5. 新規事業・M&A戦略を決める       ←次回

6. 一次業績計画を策定する
7. 一次投資枠を設定する
8. 一次組織・TOPマネジメントを決定する
9. 全社一次要員計画を策定する
10. 企業戦略を事業戦略に展開する
11. 一次長期計画のまとめ
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅴ 事業戦略 _ 中期計画
1. 企業戦略を理解する
2. ミッション・バリューの見直しを検討する
3. 事業ドメインを決める
4. 目指す製品ポートフォリオを決める
5. 成長戦略を決める
6. 売上計画を精緻化する
7. 要員計画を精緻化する
8. 投資計画を精緻化する
9. 損益計画を精緻化する
10. ロードマップ・KPIを決める
11. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
12. 中期計画のまとめ

Ⅵ 企業戦略 _ 長期経営計画
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
14. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画

最後に私の著書を紹介させてください。(Kindle Unlimited の対象です。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?