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「ウィルス時代に教える(生きる)とは」 その1 著者 / ボローニャ大学教授フェデリーコ・ベルトーニ 訳者 / 入江風子

著者 / フェデリーコ・ベルトーニ

略歴
ボローニャ大学で文学理論を教える。 主な作品には、「疑わしい真実。ガッダと現実の発見」(エイナウディ社、2001年)、「リアリズムと文学。起こりうる歴史」(エイナウディ社、2007年)、「ユニヴァーシィタリー。箱の中の文化」(ラテルツァ社、2016年)。 イタロ・ズヴェーヴォの批判校訂版「劇場と評論」(モンダドーリ社、2004年)を監修。 2017年には最初の小説「4月25日(イタリア解放記念日)に死ぬ」(フラッシネッリ)を出版。過去に比較文学と理論協会(コンパリット)の会長を勤めたこともあり、現在カンピエッロ賞審査員のメンバーでもある。

“ 歴史とは溶けて一体化することを意味します。 歴史の目的は、自分自身の肌から抜け出すことです。
ドン・デリッロ「てんびん座」”

第一節 最後の日本人

もう他には誰もいない。 皆死んでしまったように見えるが、幸いにも彼らは在宅ワーカーへと生まれ変わったのでした。辺りを引っ掻き回している子供やドレッサー上の家族写真のある小さな部屋に男も女もいるのです。3月末、ボローニャのザンボーニ通り32番地。古い建物には守衛と管理人室のおばさんと、西洋で最も古い大学の敷地内から授業を教えることを頑に主張する最後の教師が残っています。 手には武器を持ち、ジャングルに隠れ太平洋の島を勇敢に駐屯した、敗戦した日本の最後の一人のように少し感じます。

まあ実際には、この学部はまだ働いている人々のために開かれており、と言うことは法的に到達可能で、ソーシャルディスタンスが保証されています。誰もいない階段と廊下、点灯した電球、ブーンと唸るサーバー、不快なハリウッド映画のシナリオのように大きなヴォールト天井に跳ね返る足音のエコー 、人類の不可思議な終わりの後、建物や物が存続するとき。私たちの架空には限界があるので、この数週間は終末論的な類推は無駄になってしまう。 しかしその生存者は私であり、私は完全に一人です。 皆のように目に見えるもの全てを強制的に撮影する奴隷として、私はマスクの奥で大きく息を切らしながら、4階の私の研究室へと続く旅の主観的なビデオをも撮ります。 「未来への記念」と大声でコメントします。 私もコンラッドの語り手たちのように、何か言えることがあるのでしょう。 例外的な状態の折り目に形成される小さな物語たち。 誰もがそれに値するエポスを持っています。そして私はその一人なのです。

私は数週間前から、一つのウェブカメラを見つめながら、古い誰もいない学部で熱弁しながら教えてきました。 最後まで私は、大学の物理的及び建築的スペースから教鞭を取ることを試みました。緊急事態の最初の日々に規定されたように、教室からではないにせよ少なくとも私が試験を行って学生を受け入れている研究室からです。なぜこんなに固執したかと言うと、自宅の回線は不安定で、狭いスペースに小さな男の子がいるからですが、また徐々に明らかになってきた別の理由の為でもあります。一人で、そしてプライベートな場所から大学の授業を行うことは、二重に調子が狂ってしまう : 更に、家庭内の騒音や部屋の置き物を背景に、加えてマイクロソフト・チームズなどの私有プラットフォームを使用すると言うことは(これについては後ほど触れるので第五節を参照のこと)。私の大学機関の感覚、公と私の間の境界の認識、あるいは単なる軽薄な審美的な癖でしょうか - すべては災害の盲目の暴力によって一掃されてしまいました。小さなことへのこだわりなど、忘れてしまえ。

とは言えセッティングは何も変わらないのです。教室か狭い食堂、ネクタイかサンダル、どちらにせよ一人で機械の前で喋り、エレクトロニック・インパルスの動きの激しいスキャニングに授業の感情的錬金術を暗号解読(同僚はどう言うことか分かるでしょう)するのです。例えば、ウェブカメラの催眠術的の光、接続状態の色付きアイコン、笑顔とハートマークのチャット通知。 教室で顔や体に囲まれてレッスンを受けることに慣れている人にとって、それは最初は疎外感を感じる体験です。自分の声のトーンを設定し、音節を一つずつはっきりと発音し、あなたが自分が王国で最も美しいとは限らない画面で自分を凝視します。けれども段々状況に慣れて来て、インターフェースは情報科学の実験台となり、いくつかの冗談を言って反対側で彼らが笑うのか、彼らが代わりにあくびをするのか、インスタグラムをスクロールするか、ラグーを料理するのか?と自分に問いかけます。そして必然的に、少しパトスに身を委ねるのです。「みんな、教室でのみんなの顔がとても恋しいよ」、と。

第二節(その2)はこちら https://note.com/fukoirie/n/n1fdcfc793d17

原文(抜粋)はこちらから無料記事が読めます。
http://www.leparoleelecose.it/?p=38225

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https://www.edizioninottetempo.it/it/prodotto/insegnare-e-vivere-ai-tempi-del-virus

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