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読書は、いつ始まりどこで終わるのか~第45回Book Fair読書会~

読書の秋、真っ盛り!今回もそれぞれの"収穫"を披露し合いました。

それでは、本と帯の紹介をどうぞ!
(カッコ内の数字は、参加してくださった回数)

KENさん(9)→知念実希人『仮面病棟』実業之日本社文庫

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◆本や帯の紹介
〈1〉現役医師によるミステリで、主人公はバイトの男性当直医。ピエロの仮面を被り、病院を占拠した強盗犯の正体を探る。

〈2〉実はすぐ犯人(の正体)が分かってしまった。でも話の筋が通っているので、ネタバレしても十分に面白い

〈3〉カバーに色々なキーワードが示されているが、一番重要なのは「川崎13」じゃないかと自分は思います。

◆リアクション、雑談
・最近、文庫本の新カバー(全面帯)は手書き風の文章やキーワードで売り込むものが多い。

・ミステリ小説が映画になると、配役で犯人を推測できてしまいがち・・・

すぎやまさん(初)→伊藤たかみ『八月の路上に捨てる』文春文庫

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◆本や帯の紹介
〈1〉主人公・佐藤が迎える20代最後の日。今日で八月は終わり、明日には妻と離婚する。
自動販売機を補充する職業の彼は、トラックで新宿近辺を回る。上司・水城さんに、自身の恋愛、結婚、そして破局の経緯を話しながら。

〈2〉主人公の回想を聞きながら、恋愛や結婚における「成功」ってなんだろうと考えた
関係が終わったら、周囲はすぐ「失敗」だと言うけれど、逆に惰性で続けることが「成功」なのか。
たとえ三ヵ月しか付き合わなかったとしても、その間に思い出や成長があれば「成功」と言えるのではないか・・・

〈3〉ちょうど、主人公と同じくらいの年代の頃に読んで”刺さった”作品。ぜひ、皆さんの感想も聞いてみたいです。

◆リアクション、雑談
・八月の路上に捨てるものは・・・指輪?感情?

・恋愛相談の後悔あるある/相談に乗る側あるある

・本を通してディープな話をさらけ出したい。恋愛経験が少ない人も、恋愛小説を通して自分の価値観に気付ける。

こーせーさん(37)→荻原浩『海の見える理髪店』集英社文庫

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◆本や帯の紹介
〈1〉いずれも、何かしら「失敗」を抱えた家族・親子の物語が詰まった短編集。表題作では、理髪師が客に人生の「失敗」を語る中、ひとつの真実が明らかとなる。

〈2〉中でも、僕が特に良かったなと思うのは『いつか来た道』。
「なんであなたには才能がないの」「整理整頓できない人は絵も描けない」・・・画家である母に投げつけられた、呪いのような言葉。
しかし、15年ぶりに再会した母の部屋は、雑然としていた。憤る娘は、段々と母の異変に気付いていく。その過程に感動を覚えた。

〈3〉過去に失敗していたとしても、時間は過ぎ、受け入れるべき目の前の現実が出てくる。
そんな時、強さだけが人間の全てではなく、弱い部分があってもいいと思える作品だった。

◆リアクション、雑談
・小説の中で、親子関係の描写には作者の”色”がめちゃくちゃ出る。親子をどこまで「わかりあえるもの」として描くか。

・恋愛や仕事、人生についての価値観であれば、作者でなくキャラクターのものだと思える。でも家族観からは作者の”顔”が見える(前者よりも変わる余地が少ない)。

・小説の最後で「やっぱり家族はどんな時でも信じ合わなくちゃいけない」とか言われるとキツい・・・

・最近、実家に帰っていますか?(ぶっちゃけトーク)

大森さん(初)→小川糸『食堂かたつむり』ポプラ文庫

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◆本や帯の紹介
〈1〉学生の頃に読んだ、料理人の女性が主人公の小説です。ある日、同棲していたインド人の恋人が失踪。(たまたま部屋の外にあった)ぬか床以外の家財道具、さらにショックで声まで失った倫子は、かつて”喧嘩別れ”した母のいる故郷へ戻る。

〈2〉その後、彼女は一日一組限定の「食堂かたつむり」を開く。地元のお客さんから要望を聞き、人生の節目にも立ち会うなど、特別なお店となっていく。

〈3〉そして母の余命宣告と結婚、家で飼っていた豚「エルメス」との別れ・・・。
「こうあるべき」と結論を押し付けず、淡々と描かれるからこそ、読み手の親子観や、死生観が問われる。今も記憶に残っているし、オススメです。

◆リアクション、雑談
・一番印象的な料理は?→母の結婚式前日、エルメスを解体して食べるシーン。今朝まで自分が世話してきた、年老いた豚。それでも村の人々に美味しく食べてもらおうと、主人公が精一杯料理するところが、切なくていい場面。

・お母さんは、それほど「確執がある」とは感じてはいなくて、娘が親を許せるかどうか(が焦点)。
娘も昔より真剣に喧嘩したいわけではないし、ずっとダラダラ暮らせていたらいいのにと思うと、余計に悲しい。

せーやさん(4)→『天野先生の「青色LEDの世界」 光る原理から最先端応用技術まで』講談社ブルーバックス

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◆本や帯の紹介
〈1〉2014年に、赤崎勇さん・中村修二さんと共にノーベル物理学賞を受賞した研究者の著書。自身が開発した「青色LED」について、学生向けに解説されている。

〈2〉赤、緑のLEDは昔からあり、ここに青が揃えばほぼ全ての色を再現できるようになる。しかし、輝きを出すために欠かせない、透明な結晶を作る材料や技術がなかなか見つからなかった。
それでも、天野先生たちは装置の改造などを経て、不可能と思われていた開発を実現した。その功績は本当に大きなものだと思う。

〈3〉面白かったポイントは?と聞かれたら「全部」と言えるくらい面白い。特に、青色LEDの開発がなぜ難しかったのか、ちゃんと学術的に書かれているところが良かった。

◆リアクション、雑談
・読書会で、理系の本を紹介するって難しい?/「理系本コミュニケーター」がいると読むハードルが下がる

・日本は「基礎研究」にお金を使わなくなっている。そうなると将来的なノーベル賞受賞者輩出は難しい→研究者を”推す”文化や、気軽に支援できる制度が作れれば。

平山さん(初)→ピエール・バイヤール(訳:大浦康介)『読んでいない本について堂々と語る方法』ちくま学芸文庫
三浦しをん、岸本佐知子、吉田篤弘、吉田浩美「『罪と罰』を読まない」

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◆本や帯の紹介
〈1〉読書会で本を紹介するために、前日の夜に慌てて読んだりしがち。でもこの著者に言わせれば、全部読まなくても、買ったばかりの本について語ることはできる。

〈2〉なぜそれが可能かと言えば、一冊の本には多くの「周辺情報」があるから。例えば映画版や、影響を受けた別の作品に触れた経験。あるいは著者についても知っていれば、内容を推測できる。
そう考えると、実は読書が始まるタイミングって特定できない。本を開いて閉じるまで、だけが読書ではない。本を知った瞬間から読書は始まっているし、読んだ後も読書は終わっていないと言える。

〈3〉文庫本で出た時の帯「この本だけは読んでいただく必要があります」が好きで、それを超える文がなかなか思いつかなかった。
けれど、読書をもっと広い体験として捉えられれば、より豊かな趣味になるのではと思い、この帯文にしました。

〈追記〉この本に関連して、”ドストエフスキー『罪と罰』を読んだことない作家・翻訳家・装丁家が集って読書会をする”本も持ってきました。
20年前に読んだ人(編集者)と、テレビの影絵劇でしか見ていない人の知識レベルが一緒だったり・・・読んでない人だけでも読書会って成立するのでは?と思わされた。
でも、この帯では出版できないですね(笑)。

◆リアクション、雑談
・読書会に参加するハードルがもっと下がればいいな。

・読書会で焦ることあるある→昔に読んだ本でも、手元に実物がないと、内容を忘れてネットで確認してしまう。(電子書籍試し読みとの合わせ技も)

・Twitterで、1度通読しただけで「#読了」とツイートするのは、どこか傲慢というか、本に対して誠実に向き合ってない気がする。でも、あのタグを付けてツイートしないと、あまり見てもらえないジレンマがある。

ふっかー(45)→辛島デイヴィッド『文芸ピープル 「好き」を仕事にする人々』講談社

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◆本や帯の紹介
〈1〉村上春樹だけじゃない。海外で、日本人作家の翻訳本は意外と数多く刊行され、しかも人気が出ている。
この本は、日本文学を発掘し、英語圏の読者に届ける人々の活躍を追うルポルタージュ。

〈2〉特に印象に残ったのは、村田沙耶香さん『コンビニ人間』が英・米で出版されるまでのエピソード。どんな題名や表紙なら読者に「刺さる」のか、現地出版社内での議論が興味深かった。

〈3〉現代の日本文学、特に女性作家は外国でも高い評価を受ける。しかし、国際的な文芸交流をサポートする専門家や、海外出版の「窓口」となるエージェントの少なさが課題。
自分が好きな小説を世界に売り込むなら、どう仕掛ける?と想像しながら読むと、楽しいかも。

◆リアクション、雑談
・海外の文学賞への日本人作家のノミネート、むしろ日本人の方がそのニュースを知らないのでは。

・村上春樹さんは海外出版に関して、自力で頑張らなくてはならなかった。今は少しずつ時代の変化を感じる。

・注目は伊坂幸太郎さん『マリアビートル』。日本人エージェントが、ハリウッドと英国の出版社に並行して売り込むプロジェクトを展開。
結果的に米国での映画化(『ブレット・トレイン』)と、世界各国での翻訳出版が実現した。

参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました!

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