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花留多唄

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花言葉の歌留多に寄せたエッセイ。 イラストは无域屋さん。
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2020年9月の記事一覧

花留多唄【き】菊

花留多唄【き】菊

 『菊』といえば皇室の御紋であり、日本の国花の一つです。それだけに花言葉も『高貴』『高尚』『清浄』といった立派なものです。

 古くは『日本書紀』に登場する菊理媛神(ククリヒメのカミ)の名にもあります。
 この神はイザナギが死んだイザナミに会いにいった際、口論を取り持ったとされます。結局、イザナギは変わり果てたイザナミと袂を分かつわけですが。
 なんだか神産みの神話は菊の花言葉である『破れた恋』『

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花留多唄【か】カスミソウ

花留多唄【か】カスミソウ

 カスミソウはその名の通り、花束に加わるだけで霞のごとく全体的にほわっと広がりを生み出すものです。

 以前、自分の短編小説にカスミソウのような女性という設定の人物を登場させたことがありました。
 普段はそばにいることが自然すぎてわからないけれど、いざ失ったときにその存在の大きさがまざまざわかるような女性。それが私にとってカスミソウそのもののイメージでもあります。

 カスミソウだけで主役になるこ

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花留多唄【お】鬼百合

花留多唄【お】鬼百合

 目の覚めるような鮮やかな橙色に黒い斑点という、なんとも印象的な百合です。
 聖書に出てくる白百合とはまた違い、毒々しいまでの鮮やかな色合いです。

 祖父母の庭に鬼百合がありました。庭木の手前にすっと立ちはだかるように咲くのです。

 キノコも虫もけばけばしい色のものほど毒性が強いイメージのせいでしょうか、なんだか触れたら恐ろしいことが起こるのではないかとびくびくしたものです。
 鬼百合がまるで

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花留多唄【え】エリカ

花留多唄【え】エリカ

 『エリカ』の別名はヒースというそうです。どうも私にはヒースという呼び名の方が馴染み深く感じます。

 というのも、ヒースと聞くとバーネットの小説『秘密の花園』を思い出すからなんです。

 主人公は我がままで気難しいメアリー・レノックスという少女です。両親がコレラで急逝し使用人も逃げた無人の屋敷で、取り残されたところを発見されます。
 そのとき、「呼んだのにどうして誰も来ないの」とかんしゃくを起こ

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花留多唄【う】梅

花留多唄【う】梅

 梅といえば思い出すのはこの短歌です。

『東風吹かば 匂ひおこせよ梅の花 主なしとて春を忘るな』

 出典は拾遺集、詠んだのは菅原道真ですね。

 身分が低いながらも学問に秀でていたため右大臣まで出世した道真ですが、それを左大臣の藤原時平に妬まれ、あらぬ罪で大宰府に左遷させられます。そのときに京都の自宅、紅梅殿の梅を思い詠んだそうです。
 この梅は主を慕って太宰府へ飛んでいったという『飛び梅』伝

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花留多唄【い】いちご

花留多唄【い】いちご

 『いちご』の花は白くて可憐なもの。私たちが食べる部分は果実ではなく、花托と呼ばれる部分なのだそうです。

 以前、一緒に働いていたパートさんで仲の良い女性がいました。
 安定した職業の夫を持ち、子宝にも恵まれ、家族仲良く新築の家に住み……という絵に描いたような幸せそうな姿。

 彼女のお宅に招待されたとき、庭の一角に案内してくれました。
 そこは一面のいちご畑。真っ赤な実が鈴なりになっています。

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花留多唄【あ】アンスリウム

花留多唄【あ】アンスリウム

 花の名前にピンとこなくても、その姿を見れば「あぁ、どこかで見たことがある」と思われる方が多いのではないでしょうか。
 よく花束やアレンジで見かけるのは、すっと伸びた茎の上に真紅のハート型に小さな尻尾のような黄色い房がついているもの。

 別名はベニウチワ(紅団扇)といい、学名にあたるアンスリウム(Anthurium)はギリシャ語で尾の意味「oura」と花の意味「anthosaura」という言葉が

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