【ショートショート】最先端
ぼくは宣伝部のドアを開け、
「今日からお世話になります。山城と申します!」
と元気に挨拶した。
「山城君、待ってたぞ。さっそく着替えてくれ」
紅白のド派手な衣装を与えられた。
「ここに座って」
若い女の子がぼくの顔に白粉を塗っていく。
「ユカちゃん、今日の予定は」
ひげ面の着物姿のおじさんが聞く。
「はい、午前中は宮下パチンコ、浦部ショッピングセンター、昼休みをはさんで、午後はモウモウ焼肉、アップルストア、蔵前銭湯となっています」
「今日も忙しいねえ。頑張ろう」
「あっ、あのう」
「どうした」
「この格好はなんですか」
「仕事着さ。君、大学でジャズ研にいたんだって」
「はい」
「アドリブはできるよな」
話がずれてるなと思いつつ、ぼくはうなずいた。
「じゃ、いくぞ」
宣伝部第五楽隊は定刻に出発した。ぼくはクラリネットを手にして流行歌をジャズっぽく演奏する役割だ。若い女の子は彩音ちゃんといい、チラシを配って歩いている。
現場によって、選曲がぜんぜん違う。ショッピングセンターではK-POPをアレンジし、アップルストアではボレロを崩して演奏した。彩音ちゃんの配っているチラシもよく見ると、ターゲットによってぜんぜんデザインが違う。
さすが一流の広告代理店。ターゲティングがばっちりだ。
会社に戻って化粧を落とし、ぼくらは焼き鳥屋で乾杯した。
「山城君、馴染んでいたね。なかなかいいよ」
「ありがとうございます。チンドン屋がこんなにやり甲斐のある仕事だとは思っていませんでした」
「そうだろう。最初はみんなびっくりするんだよ。明日もよろしくな」
「はいっ」
とぼくは勢いよく返事した。
(了)
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