【ショートショート】お手軽観光

　量販店をぶらぶら歩いていて、隅のほうに360度ビューロボットを見つけた。
　説明書きによると、大きな頭にいくつもの光源があり、室内全体に風景を再現できるそうだ。ありとあらゆる情報にアクセスし、どんな場所でも再現するという。
　出不精なぼくにぴったりのロボットかもしれない。
　レジで精算を済ませると、ロボットは後ろからとことこと歩いて付いてきた。
　すぐにも観光してみたい。ぼくたちはカラオケに入った。
　ぼくは椅子に座り、ロボットにたずねた。
「どこでも再現できるの？」
「はい」
「富士山を観てみたいな」
「では、芦ノ湖畔から見た富士山を表示します」
　ほんとに360度だった。空も湖も富士山もぜんぶ美しい。
「富士山に寄ることはできる？」
「もちろん」
　ぐぐっと富士山がアップになった。
「すごいすごい」
　
　いろいろな観光地を見たあと、ぼくは試しに言ってみた。
「ぼくの部屋を再現できるかな」
「はい……」
　ロボットは沈黙した。長い沈黙だった。
　ぼうっとなにもない空間が浮かびあがった。
「ネットにも、監視カメラにも、通話記録にも、通販記録にも、ご主人様の生活に関する記録は存在しません」
　たしかにぼくは天涯孤独だし、友だちもいないし、ネットもしない。部屋の家具はボロい中古屋から買った。ぼくのことを話題にする人はいないだろう。
「ご主人様は寂しい方なのですね」
　ロボットがぽつっと呟き、ぼくはちょっと傷ついた。

（了）

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