【ショートショート】メタモルフォーゼ
水滴が額に落ちた。
私は一瞬のうちにハトの軍団に白い糞を落とされる夢を見て目覚めた。
額をぬぐい、手の匂いを嗅いですこし安心する。
安心している場合ではなかった。天井を見あげると、そこには昨日までなかった大きな染みが広がっている。
夜中のうちにゲリラ豪雨でも通過したのだろうか。
窓をあけても、雨の気配はない。
「どうしたの」
と妻の寝惚け声がした。
妻の口のなかに水滴が落ちた。
妻の姿が消えた。
あたり一面に広がる水たまり。
「おーい」
声をかけても、水たまりが返事をするはずもない。
猫がやってきて、ピチャピチャと音をたてた。
猫も姿を消した。
するすると水が私の体を這い上がってきた。猫か妻か。
口の中に水が入り、くるりと視界が切り替わった。
やがて……会社の同僚がやってきた。彼も玄関の鍵をあけた管理人も水になった。
次にやってきた上司も警察官も。
水になった私たちは食べる必要がなく、したがって働く必要もなかった。ただ仲間を増やしていくだけだ。
地球は水の惑星である。
(了)
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