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【ショートショート】人生鑑賞

 父が亡くなった。
 ドローン型記憶マシンが静かに父の枕元に舞い降りた。
 葬式を終えると、オレは父の遺骨と記憶マシンを代々の墓に納めた。墓の下には先祖のお骨と記録マシンが並んでいる。
 オレは記憶マシンに命じた。
「父の生涯を家族用に一時間にまとめてくれ。それから外部公開用のプロフィールも頼む。これも一時間だ」
 記憶マシンは小さな音をてて編集作業を行い、結果を出力した。オレはデータをスマホで受け取った。
 ネットワークに父の簡単な紹介文とプロフィール動画をアーカイブした。デジタル墳墓である。
 夕食のあと、家族で父の生涯を鑑賞した。さすがに一時間という指定は厳しかったかもしれない。たいへんな高密度で父の人生が再生されていく。
「あっ、父ちゃんが生まれた」
 と息子が言った。
「そうだな」
 とうなずいているうちに、オレはあっと言う間に成長して保育園児となった。
 数十分後に、父は七四歳の生涯を終えた。
 母はそれからも何度か墓に足を運んだようだ。そのたびに映像記録を持ち帰ってくる。
 いつの間にやら妻と息子はオレより父のことに詳しくなっていた。
「なにを見ているんだ?」
 と聞くと、息子は元気よく、
「じいちゃんの旅のアーカイブ、面白いよ」
 と言った。
 妻によると、父はスピーチの名人であったらしい。母は「挨拶集」というアーカイブを見せてくれた。
 オレはあせった。父にくらべ、自分の無趣味がうらめしい。亡くなってから、こんなにふうに記録を編集されるならいまからでも趣味を作るべきか。ふと顔を上げると、オレのことを見ているドローン型記憶マシンと目が合った。

(了)

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