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【ショートショート】ネコ

 机の上にひょいっとキジトラ猫の米田先生が上がってきた。日の出高校のロゴ入り首輪をした先生は国語の教師で、ぼくの担任である。
 ぼくはもうすぐ一八歳の誕生日を迎える。
 成人になったら一枚の書類を役所に提出しなければならない。
 チェック事項はヒトのまま、猫になるの二択。
 十年前にヒトを猫化する技術が発明され、多くの人が猫になった。注射をするだけで、全身から毛が生え、四つ足になり、身体のサイズもだんだん縮んでいく。
「滝沢くん、もうすぐ誕生日ね」
「はい」
「どうするの」
「ぼくはヒトのままでいようと思います」
「まあ、珍しいわね。滝沢くんはどんなヒトになりたいの」
 米田先生は教壇の上に座り、目を見開いた。社会はだんだん猫によって支えられつつある。
「じつは政治家になりたいんです」
 米田先生の顔が曇った。
「なるほど、あれはヒトの仕事だものね。先生としては、もっと猫の政治家が増えてほしいと思うけど」
「猫はお金にも権力にも執着しないですからね」
「だから、政治家に向いていないって言われるの。でも、ホントはそういう政治家こそ理想じゃないかしら」
 ぼくの家は代々政治家の家系で、地盤を引き継ぐべく教育されてきたし、これからもそうだろう。
 しかし、ほんとにヒトである必要があるだろうか。ぼくは先生の言葉で目が覚めた気がした。
 これからは地盤だって確実にネコ化していく。
 父を説得してみよう。なれるものならぼくだってネコになりたいのだ。

(了)

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