【ショートショート】落とし物
すこし傾斜のある小道だった。
丘の上にある中学校に向かって歩いていたぼくは奇妙な落とし物を見つけた。
最初はごみかと思った。
くしゃっとした薄緑のかたまり。つまみ上げると、女性の服だとわかった。シャツに似た、もっとふわっと膨らみのある、名前はわからないが、いかにも女の子が着てそうな服。
どうしてこんなものが落ちているのだろう。あたりは田畑で、洗濯物が飛んできたとは考えられない。
ぼくは困った。放置すれば汚れてしまうし、駅前の交番に届けていたら遅刻してしまう。
結局、リュックのなかに押し込むしかなかった。
運の悪いことに、その日、持ち物チェックがあった。
タナカ先生に、
「なんだこれは」
と聞かれ、ぼくは、
「落とし物です」
と答えた。
タナカ先生は来たまえと行って、ぼくを校長室に連れて行った。
校長室には、五人の生徒と先生がいた。
それぞれ、靴下、青のスカート、黒のショーツ、タンクトップ、ブラジャーを拾ったという。
「これはなんでしょう」
とぼくはたずねた。
「それはブラウスだな」
ああ、そういう名前なのか。
「君たちはこれをどこで拾ったのかな」
商店街、河原、木の枝、お寺の境内、通学路、廊下、階段とみんなバラバラなことを言った。
先生たちは首を傾げる。
そこへ女性のマネキンが入ってきた。
「どうもすみません。好きな服を着せてもらえないので、つい癇癪を起こしてしまいました」
そして落とし物を着ると、一礼して店に帰っていった。
(了)
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