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【ショートショート】未来

 宅配便が届いた。
「おーい、荷物だよ」
 と妻に声をかける。
 たいていはメルカリから妻への荷物だ。
「これ、あなた宛よ」
「あれ、珍しいこともあるもんだ」
 荷物をあけてみると、金属の付着した板があらわれた。
「これは電気回路セット?」
「そうかも」
「どうしろと」
「マニュアル読みなさいよ」
「うーん。半田付けみたいだな。けっこう細かいよ、これ。あ、うちにはんだごてってあったっけ」
「あるわけないじゃない」
「話は、はんごだてを買うところからだな」
 などと話しているうちに、妻にも電気回路セットが届いた。
「そういえばお隣の斉藤さん」
「うん」
「お庭ではんだごてを使っていたわ」
「へえ。流行っているのかなあ。電気回路作り」
 翌日、はんだごてが届いた。
 さて、実際に半田付けをしてみると、これがなかなか難しい。
 その日も、電気回路セットが届いた。一日、一枚かあ。これはなかなか厳しい。
 だんだん馴れて、一日一枚こなせるようになった。
「それにしても、これ誰が送ってくるのかしら」
「不思議だよねえ。回収にくるのかな」
 回収に来た。
 遮光器土偶のコスプレをした人か、宇宙人のどちらかだ。
「たくさん回路を作ってくれてありがとう」
「これを」といって私は電気回路の山を振り返った。「送ってきたのは、あなた」
「はい。そうです。今日は回収に来ました」
「回収といっても、こんな大量の」
 と言っているうちに、遮光器土偶は黒い大きな鞄に電子回路をどんどん放り込み始めた。いくらでも入る。
「回収、完了しました。お疲れさまでした」
 遮光器土偶は隣の斉藤さんちに向かった。
「結局、なんだったんだろうね」
「さあ」
 と妻も首をひねった。
 その後も電気回路セットは延々と届き続けて、遮光器土偶は月一ペースで回収にやってきた。
 カチッ。
 なにか回路が切り替わる音がした。それは人々の胸の中に響いた。
 人類の未来はどちらかに向かって、切り替わったのかもしれない。それがどういう方向なのかは、未来が来てみないことにはわからないが。

(了)

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