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【ショートショート】脅迫

「親分」
 と怖い顔の男に向かって、神崎部長が声をかけた。
「親分っていうな」
「社長」
「なんだ」
「ホテルオークラのトイレに出来心発生装置を取り付けて、百万円を入れた紙袋を置いてきました」
「ご苦労。誰が見張っているんだ」
「ゴロウです」
 ゴロウから電話が入った。
「五十年輩の紳士が紙袋を持って出ていったそうです」
「よし。後を付けろ。話をしに行くのは明日だ」
 紳士は閑静な住宅地にある一軒家に入っていった。
 翌朝、フロント企業ご一行様はその家の前に集合し、ドアベルを鳴らした。
「どなたですか」
「トイレに紙袋を忘れた者なんですがね」
 カチッと鍵が開く音がした。
「お入りください」
 応接間に通されたのは社長と神崎部長、平社員のゴローの三人だ。
 神崎が口を開く。
「私ども、困っておりましてね。百万円を入れた紙袋をなくしてしまって」
「ここにありますよ」
 紳士は部屋の隅にある紙袋を指さした。
「ふつうは警察に届けるものじゃありませんかね」
 神崎はじわじわと話を詰めていく。最終的には脅迫して百万円以上の金を奪い取るつもりだ。
「ふつうはね」
 紳士は手のひらを開いた。そこにあったのは黒い小さな出来心発生装置。
「こういうものが一緒に置いてあるとなると、話は別かな」
 三人の顔色が変わった。
「なぜそれを」
「いまから一緒に警察に行きますか。詳しい事情を喋りますよ」
「いや、それは」
 神崎部長が狼狽した声を出した。
「その金は置いていきますから、どうかご内聞に」
 社長が鶴の一声を発し、うなだれた二人の部下とともに玄関を出ていった。
「ふふ、ちょろいもんだな」
 と紳士は呟いた。彼は出来心発生検知装置を持っていた。ちょっと高価だが、この分だとすぐに元を取れそうだ。

(了)

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