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【ショートショート】散歩日和

 今日は天気がよい。
 私はカーディガンを羽織って、散歩に出た。
 目の前には背中を丸め、ヨチヨチと歩くロボットがいる。
 あぶなっかしい。
 おまえは家で留守番をしておれと言いたいが、恥ずかしながら、私自身も似たようなものだ。ロボットには私の骨年齢を入力してある。
 金木犀の薫るなか、ロボットは住宅地の路地をとぼとぼと歩いて行く。このあたりはでこぼこが少なく、飛び出してくる車にさえ気をつけていればいい。
 角を曲がるところで、どんと鈍い音がした。
 ロボットが何メートルか宙を飛んだ。
 血相を変えた男が車から飛び出してきた。撥ねたのがロボットだと気がつくと、
「脅かすんじゃねえよ」
 とわめき、私を睨んで去って行く。
 ロボットはヨロヨロと立ち上がった。私はダメージインジケータを調べる。
 自分だったら死んでいたな。
 転倒マシーンの研究を始めたのは六十歳の頃だった。母を施設に預け、老人の転倒骨折があまりにも多いことに驚いたからだ。
 完成までに約二十年を要し、いまでは自分のために使っている。
 ロボットは歩道を歩き出した。
 アスファルトの凹凸に足を取られ、ぱたっと倒れた。
 ダメージインジケータを調べると、捻挫レベルである。
 あそこはいつも危ない。近所の市議会議員に文句を言ってあるのだが、いっこうに直す気配がない。私はゆっくりと危険箇所を通り過ぎた。
 二十分も歩くと息が上がる。
 喫茶店でひとやすみ。
 ロボットは邪魔になるので、店の前に座っている。私は窓からその後ろ姿を眺めた。つながれた飼い犬のようにどこか悲しげだ。

(了)

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