【罠の戦争】第二話感想「鷲津と虻川の頭脳対決。キーマンは蛯沢か」
前回からの続き(ネタバレあり)
一話と二話は「対虻川戦」の前編後編のおむもきがある。
整理してみよう。
「罠の戦争」の基本構造は、息子が歩道橋の上から突き落とされ、大臣秘書の鷲津亨が復讐を行うというものである。
犯人の姿は見えない。「上からの圧力」があるだけだ。「これは事件ではない。事故だ」と大臣に言い含められ、弱い立場の者はすべてを我慢しなければならないのかと反発した鷲津は復讐を誓う。
当面の敵は犬飼大臣である。犬飼大臣の力を削ぐために、筆頭秘書の虻川勝次の排除に動く。鷲津はパワハラをネタに週刊誌に記事を書かせ、政策秘書の虻川勝次と犬飼孝介大臣を追い込む。幹事長は釈明会見を命じた。釈明会見場で二発目の罠が爆発する。釈明の書面がすり替えられており、犬飼大臣がその冒頭を読んでしまったのだ。
第二話の冒頭は記者会見場が混乱状態に陥り、記者たちに囲まれる大臣を鷲津亨が救い出すシーンから始まる。避難先の会議室で大臣は虻川に向かい「最終的に渡したのは虻川、おまえだろうが」と怒る。
鷲津のセリフに即興はあるのか
もちろん、虻川のはずはない。虻川は最初マスコミへのリークや書面のすり替えで蛍原を疑うが、ひとりでできるだろうかと考え、鷲津に標的を定める。「あの人は手強いよ」という鷲津亨のセリフがある。鷲津は永田町で生き残ってきた虻川の動物的な勘のよさを侮っていない。
鷲津は虻川に新人秘書蛯沢の教育を頼み込む。ここからはお互いを敵として認識しているので、情報戦となる。虻川は大臣に鷲津がいまだに息子泰生の事故現場付近を嗅ぎ回っていることを伝え、大臣の怒りを煽る。鷲津による事故現場付近の聞き込みが、虻川に見せるためのものだったかどうかは、最後まで描かれない。個人的には鷲津の行動は本心からのものであると同時に危険を自覚したものでもあると解釈したい。
大臣はシンプルな性格で、入力された情報にすぐ反応する。地元のバーベキューパーティで鷲津に「おまえ、泰生くんの事故の現場、調べてたって。どういうことだよ。えっえっ」と詰め寄る。
鷲津の切り返し。
このセリフが即興かどうかは判断できない。計算尽くなら頭が良すぎるし、即興にしても尋常ではない頭の回転の速さだ。
大臣の疑惑は消滅。憎々しげに睨んだ虻川は、大臣の息子俊介と連れだってどこかへ消えていく。クルマの中で白い封筒を渡す。木陰からそれを撮影している鷲津。献金疑惑に直結する証拠である。一瞬で攻守が逆転するが、それに気づいた虻川はすぐに貝沼に「鷲津を見張れ」と命じる。
蛯沢の動機はほんとうか
蛯沢が犬飼大臣に対してどんな怨念を持っているのかも描かれる。スマホの待ち受け画面の蛯沢兄弟。「似てないねー」という亨に対し、「よく言われます」と蛯沢。この兄こそが怨念の理由だった。兄の会社は倒産の危機にあり、地元の伝手をたどって、犬飼大臣に陳情したのだ。「善処します」と答える大臣。ほっと息をつく蛯沢兄妹。だが、その後連絡はなく、兄は過労死してしまう。
バーベキュー会場では、農協の役員と大臣の雑談を聞いていた蛯沢が怒りのあまりパイプ椅子を蹴飛ばすシーンが描かれる。
蛍原に助けられる蛯沢。蛍原は「怒り方間違えちゃダメ」とアドバイスする。
大臣の就任パーティで蛯沢が生卵を持っていた理由はこれでいちおう解消されるが、まだ一段、奥がありそうな気がする。ここで終わってしまうには、蛯沢の存在は重すぎる。
二回目のすり替えは写真
虻川の力の源泉は犬飼事務所の金銭のやりとりを記した裏帳簿の存在だ。それがどこにあるかは大臣も知らない。
虻川を抹消しようとする鷲津はネットワークを利用する。それは人であり、マスコミである。
貝沼からの情報で鷲津が夜の公園で週刊誌記者の熊谷と接触しようとしていると知った虻川はこれを逆用、大臣を連れて現場に踏みこむ。大臣の息子の収賄疑惑の写真をエサにマスコミを味方につけようとしている鷲津の姿を暴こうとしたのだ。だが、取り上げた写真は野党第一党の女性党首のスキャンダル写真。
熊谷はこの写真を「犬飼大臣の得になるだけでしょ」と切り捨て、返す刀で虻川に「うちの編集長にいざとなったら犬飼大臣を潰せるネタがあるって売り込んだって」と迫る。大臣の怒りを買う虻川。
鷲津の仕掛けた第三の罠だった。
印象に残るインサートシーン
こうした復讐譚の途中に、二度、過去の家族シーンがインサートされる。ひとつめは洗濯物の畳む可南子の前にふっと過去の泰生があらわれ、一〇〇メートル走の話をする。幻はすぐに消え、また洗濯物を畳む可南子。
ふたつめはマンションのベランダだ。鷲津と息子がキャンプに行ったときの思い出を語り合う。
こうした演出が可南子の「私にもなにかさせて」というセリフにリアリティをもたせている。
虻川乱心
大臣の信頼をなくし、新しい情報も入手できず、手詰まりに陥る虻川。秘書室で鷲津が第四の罠を仕掛ける。噂を流すのだ。
唯一の虻川派である貝沼に聞かせているのだ。情報はすぐに虻川に伝わる。激怒した虻川は直接鷲津を締め上げようとするが、居場所がわからない。わざと電話に出ない鷲津。「直帰」と聞いて、虻川はマンションに向かう。だが、そこに待っていたのは……。可南子の名演技が見られる。週刊誌に「続報」と称して、パワハラ秘書が部下の自宅に乗り込む記事が載る。またも大臣は官邸に呼ばれ、薄皮一枚で首がつながる。
泰生の事件拡散
可南子は熊谷のインタビューを受けている。iPhoneで可南子の訴えを撮影する熊谷。いろいろな人がスマホの画面を見つめている。ニュースが拡散しているのだ。「鷲津の息子の怪我は事件であった」。この報道はさりげなく処理されるが、今後の展開に重要な布石となるだろう。第二回のなかで一番重要なシーンだったかもしれない。
蛯沢の活躍と虻川の凋落
夜の町を歩いている虻川。若者と肩がぶつかる。喧嘩になり、警察に逮捕される虻川。翌朝、迎えに来たのは鷲津だった。ふたりの最終対決シーン。
虻川の力の源泉である茶色の手帳は蛯沢によって発見されていた。毎日地元のネギ畑で手伝いをしていた蛯沢は、用もないのに地元にやってくる虻川の動きを不審に思い、ネギ畑の主から倉庫を貸していることを聞き出す。
警察署の前で鷲津の胸を掴む虻川。思いの丈を吐き出す。
大臣到着。鞄から茶色い手帳を取り出す鷲津。虻川は大臣から首を言い渡される。頭脳戦を制した鷲津。しかし、辛勝だったといえる。蛯沢を虻川に張り付けたのが最終的な勝利につながったが、手帳を発見できるかどうかは運任せだった。「罠の戦争」の見所は鷲津の頭脳の鋭さ、冷静さにあり、この綱渡り感にはすこし不満が残った。
伏線
「罠の戦争」という名前の通り、このドラマでは張り巡らせる罠、「伏線」が重要なテーマとなる。伏線には長期の伏線と短期の伏線があるはずであり、第二回は比較的短期的な伏線が多かった。しかし、あまり目立たないところに長期にわたる伏線がいくつも仕込まれているはずであり、それを想像するのがこのドラマを視聴する楽しみである。たとえば、蛯沢の次のようなセリフ。
いまのところ、蛯沢が敵に回るような展開は考えにくいが、鷲津チームが決して一枚岩ではないことは確かだろう。亨の確実な味方といえるのは可南子だけではないかという気がする。
(了)
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