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「罠の戦争」第七話感想「鴨居大臣大ピンチ。鶴巻幹事長の不気味な沈黙」

今回のターゲット

 第八話のターゲットとなるのは、鴨居大臣親子である。
 鴨居ゆう子(片平なぎさ)は現職の厚生労働大臣であり、初の女性総理を目指している。後ろ盾は鶴巻幹事長だ。
 第六回は、総理直々のリークにより鴨居が事件当日幹事長室に相談に行ったことを突き止め、亨が大臣室で「犯人を隠したのはおまえだろ」と詰め寄るところで終わった。今回の冒頭はそこからである。
 この時点で亨が知っているのは、幹事長鴨居ラインが警察に圧力をかけたこと、鴨居には二十歳をすぎたくらいの息子がいることくらいである。
 このエピソードは、亨があまり計算高くないことを示しているようだ。観ている側としてもまだ早いと思ってしまう。幹事長ならもっと材料を集めるだろう。
 しかし、直情型の亨は、直談判に及ぶ。あやしい相手にはまずぶつかって、その反応から情報を得るというのが亨なりの手法らしい。後援会長を落としたのも同じ手口だった。
 蛍原と蛯沢のコンビ、熊谷の協力により、息子文哉の所在が明らかになり、亨はまたしてもひとりで面談に出かける。ストレートにもほどがある。政策秘書虻川を追い詰めたときの情報収集と緻密な罠はどうした。
 どちらが亨の本性なのかわからないが、ひょっとすると亨なりの情勢判断かもしれない。すでに百鬼夜行の世界に足を踏み入れた。すべてを計算しようとすると足がすくむ。
 がむしゃらに動くことで事態を打開していくしか、方法は残されていないのか。

目撃者の登場

 ストーリーとは情報をいつどのように開示するかということの繰り返しである。新しい情報に新しい反応があって、話は先に進む。情報操作の面からいって、この物語を動かしていくキーパーソンが熊谷記者になるのは当然の流れだ。今回も彼女が書いた週刊誌の記事を見て、いままで正体不明だっ目撃者があらわれ、亨たちに協力して鴨居大臣を罠にはめる。
 大臣は息子の文哉が亨の息子を突き落としたことを認めざるを得なくなり、謝罪におもむく。亨は許さない。息子のためというのは嘘だろう、自分が可愛いだけだと突き放す。鴨居大臣は追い詰められ、すべてを認め、「それでも私は潰れない」とうそぶく。亨の追求は鴨居大臣の心の中の葛藤を表面化させた。この経緯は面白いのでもうすこし詳細に書く。

スピード展開

 物語のスピード感は大胆な省略から生まれる。
 目撃者の女性は鷲津に対し、証言をするために謝礼はいくらかとたずねる。顔を見合わせる鷲津たち。
 その次のシーンは彼女が鴨居大臣を罠にはめる駐車場のシーンである。すっかり協力者となっているのだが、その経緯は描かれないままだ。鷲津が金を払ったのかどうか、説得行為はまるまる省略されている。
 これは謎を残したというより、キャラから言って不正な金を払うわけないだろう、という省略だと思われる。
 このあたりの省略が観ていて気持ちのいいところだなあ。

人が動く

 「罠の戦争」は復讐劇であると同時に政治劇でもある。
 政治の要諦はどのように人を動かすかだ。命令して動かすのは下の下である。たぶん。
 どういう場合に人は自主的に動くのか。このドラマではそれがちょくちょく描かれる。面白いので例をいくつか拾っておく。
 まず自分の評価を第三者から聞く場合。
 例は眞人である。亨からの電話。深夜遅くまで陳情書に目を通しているのは眞人との約束だと蛍原に告げる。ふたりは鴨居文哉のアパート前にいる。眞人は無理をしてアパートの周囲を捜索し、住人に見つかって逃走する。眞人を犯罪寸前の行為に突き動かしたのは、亨の言葉のせいであるが、蛍原の口を通したことに注目したい。
 状況を作る場合。
 幹事長の作戦はこれだ。週刊誌記者の熊谷が犯人を煽る記事を掲載。それを見逃す幹事長。状況は悪化し、鴨居大臣は息子を切って女性総理を目指す腹を固める。人が動いたのである。鴨居大臣は幹事長が「腹をくくれ」と言っても無理であったろう決断をみずから下した。その後、もっとヤバい記事が出そうになったら幹事長は即座にもみ消しているから、この時だって、記事を止めることができないはずはなかったのだ。

政治家としての鷲津

 派閥の会合には出ない。
 その一方で陳情にはできるだけ対処し、自分が面談できなかった相手の陳情書にもかならず目を通すと宣言する。代議士でいる間だけでも政治家でありたいという思いであり、亨の目指している政治家像のいったんが示されている。
 こんな政治家がいたらいいなと視聴者に思わせておいて、さて、どう展開するのか。かならずや逆転がありそうな気がする。
 これまで潰してきた人物、これから潰すであろう人物たちが鷲津亨のなかで蘇るという展開だ。ホラーだね。そんなことにならなければいいけど。
 私はこのドラマを観て、ひさびさにスターウォーズの「ダークサイド」という言葉を思い出したりしている。

(了)

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