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【罠の戦争】第一話感想「鷲津には謎がある。なぜ蛯沢に声をかけたのか」

シリーズ三作目「罠の戦争」

 「罠の戦争」は「銭の戦争」「嘘の戦争」に続く戦争シリーズの三作目であり、草彅剛民放ドラマ復帰第一作となる話題のドラマだ。23年1月16日に第一話が放送された。カンテレ制作。演出は三宅喜重、脚本は後藤法子。
 一作目は韓国ドラマのリメイクだったせいもあり、メリハリのくっきりとした復讐劇であった。二作目もその傾向を引き継いだ。
 本作も復讐劇であることに変わりはないが、円熟味を増した草彅剛を活かすための工夫を仕組むのではないかと予想する。
 以下、ネタバレ入りの感想です。

冒頭14分間の長いパーティシーン

 一話目は56分のスペシャルバージョンであった。最初に犬飼孝介(本田博太郎)の初入閣披露パーティを持ってきて、主人公の鷲津亨(草彅剛)をめぐる環境、大臣秘書という仕事の性質、息子泰生(白鳥晴都)の事故(事件?)、内閣の勢力図までを一気に描く。ここまでで冒頭の14分を使い、やっと「罠の戦争」のタイトルが出る。

主人公の能力

 復讐の主人公はなんらかの超人でなければ面白くない。草彅によると「今まででいちばん一般人に近い主人公」ということだが、ずば抜けた能力がひとつ用意されていた。記憶力である。一度会った人の顔と名前は絶対に忘れない。近況に関しても調査し、頭の中に叩き込む。それが政治家秘書の仕事だと言われればそうだが、やはり異能だろう。あとは怜悧な頭脳ということになる。

復讐の構図

 悪役として登場するのは政策秘書の虻川勝次(田口浩正)である。鷲津と同じ秘書の立場だが、金庫番をしているため権力側として描かれる。みるからに態度が悪く、とくに女性秘書の蛍原梨恵(小野花梨)に対するパワハラがひどい。
 第一話で提示される復讐の構図は、「息子が下校中に誰かに歩道橋から突き落とされ、意識不明の状態に陥る→突き落とされたと言った女性がいたが所在不明→大臣に「事故」として処理するようにとの圧力がかかる→弱い者はなにをされてもいいのかと怒り、復讐を誓う鷲津」というものである。ほんとの敵はまだ見えない。大臣に圧力をかけられるほどの存在という匂わしだけだ。

弱い秘書軍団の反撃

 鷲津は大臣の力を削ぐために、虻川の排除を決意する。協力者は妻の可南子(井川遥)、秘書の蛍原と新人秘書の蛯沢眞人(杉野遙亨)である。パワハラをネタに使い、事件記者の熊谷由貴(宮澤エマ)の協力を得て、週刊誌の記事にする。犬飼大臣は失言大臣として描かれており、それまでも「女性は子どもを産むのが仕事」発言が問題化している。さらなるスキャンダルは大臣にとっても痛い。犬飼大臣は幹事長に怒られ、謝罪会見を開くことになる。スピーチ原稿を書くのは鷲津の仕事である。鷲津は二種類の文書を書いて差し替え。会見当日、大臣は火に油を注ぐ発言をしてピンチに陥る。

見所は本田博太郎の土下座

 神輿は軽いほうがいい。本田博太郎はみごとに「担がれ失言大臣」を演じている。犬飼大臣は他人に対して、名前を呼びかけるのが得意だ(それは鷲津の記憶力によるところが大きいのだが)。鷲津に対しても百通りの声音で「わしづー」と呼びかける。病院の外で事件のもみ消しを計るときの鞭と飴の使い分けシーンが圧巻だ。こんな具合である。

「あのなあ、鷲津、事故だ。泰生くんの件は事故だった」
「大臣」
「泰生くんは誤って歩道から落ちた。不幸な事故だった。そういうことにしてくれ」
「誰に頼まれたんですか」
「誰でもいい」
「大臣、犯人をご存知なんですか」
「知らん」
「でも」
「誰かが誰かに頼んで、その誰かが私に頼んできた。この世界じゃよくあることだろ。頼む」
「いくら大臣の指示でも」
「ならしかたない。虻川から聞いたぞ。おまえ、金を着服しているって。猿岡建設から受け取った三百万円、事務所に報告してないそうじゃないか」
「猿岡建設、受け取ってません」
「でも、仲良くしているんだろ。猿岡社長と。ずいぶん親しそうだ」
「この日、はじめて会った人ですよ」
「おれは信じたいよ、おまえを。でも、猿岡社長もお前に金を渡したと言っているよ」
「まさか」
「でも、いつまでも庇ってはいられない。おまえ次第だよ、鷲津。横領で訴えられるか、秘書としてこれからもずっと働き続けるか。泰生くんは事故だった。だよな。返事しろよ、鷲津。わかっているのか、おまえをこの場で首にもできる。秘書の代わりなんてのはいくらでもいるんだよ。泰生くんの治療に金がかかるだろう。収入が断たれたら、困るだろう。横領の噂が広がれば、ほかに雇う議員もいない。君ら一家は路頭に迷う。おれはさあ、鷲津にそんな目にあってほしくないんだよ。な。わかった、と言ってくれ。頼むよ、鷲津。泰生君のために最高のドクターと病院を探す。金も援助する。だから、な、頼む」

 そして土下座。犬飼大臣の脅しを蒼ざめた表情で聴き続ける草彅剛の演技も見事だ。

新人秘書蛯沢眞人の謎

 話は一直線に進んでいるように見えるが、一点だけ、謎の部分がある。蛯沢眞人はわりにはやくに登場する。大臣就任パーティの会場の外でをろうろしているのだ。「後援会の方ですか」と鷲津に問われ、「いや、パーティに参加したいんじゃなくて、犬飼大臣はどちらに」と問い返す。目つきがあやしい。「陳情でしたら、後日、改めて」と鷲津は言い、ちょうどそのとき大臣が車で到着する。パーティが始まる。なぜか会場の中にいる蛯沢。生卵を大臣の額に思い切りぶつけるシーンを妄想し、まさに実現しようと歩き出した瞬間、ジェンダー平等を掲げる活動家が大臣にグラスの酒をぶっかける。身を挺して防ぐ鷲津。蛯沢は鷲津に駆け寄り、リュックからタオルを取り出して「これよかったら」と差し出す。鷲津亨は床に落ちた履歴書に目をとめる。そこには「植物学修士課程中途退学」とある。
「仕事、探しているの」
 と声をかけ、
「今日は見学していくといい。名前は」
 と聞く。
「蛯沢です。蛯沢眞人」
「先輩の蛍原さん。いろいろ教えてあげて」
 蛯沢は蛍原が人に呼ばれて去った隙にポケットからそっと生卵ふたつを取り出し、机の上に置く。鷲津はすこし離れた位置からその光景を眺めている。
 この時点で、息子の泰生が歩道橋からの落下したことを鷲津はまだ知らない。
 復讐譚は大臣が息子の事件を「事故だ」と隠蔽しようとしたところから始まったように描かれているが、その前から鷲津の行動には不審なところがある。なにか描かれていない対立があるのではないか。
 パーティの翌日、蛯沢はスーツ姿で犬飼事務所にあらわれる。このとき鷲津は「お、来たんだ」とねむたいことを言っている。その後、ようやくパソコンが使えること、車の運転ができることを確認して、正式に秘書として迎え入れるのだ。パーティ会場での引き込みの動機がわからない。
 虻川をパワハラ疑惑ではめてから、三人で定食屋ですき焼き定食を食べる回想シーンがある。
「息子はまだ意識不明。誰かに突き落とされた。事件をもみ消すために、犯人は犬飼大臣に手を回した。大臣に脅されたよ。路頭に迷うぞって」
「鷲津さん、あんなに大臣に尽くしているのに」
「オレ、そいつら全員潰したい。力を貸してくれないか。二人には迷惑をかけないようにするから」
 ここではじめて復讐チームが誕生する。しかし、蛍原は驚く。
「ちょっと待ってください。私はいいですよ。もちろん協力します。でも……いいんですか、蛯沢くんにまで。よく知らないのにちょっとぶっちゃけすぎというか」
「そうですよ。ぼくが犬飼大臣の支持者だったら。言いつけたりしたら」
「いや、君は言わない」
「え」
 鷲津はパーティ会場での生卵未遂事件のことを指摘し、
「君も、なにかあるんだろ、犬飼大臣に。勘だけどね」
 と言う。
「オレの勘はかなり当たるんだ」
 パーティ時点であれば、鷲津はまだ犬飼側にいるはず。なぜ、なにかある蛯沢に声をかけたのか。それが今後解き明かされるべき謎である。

(了)

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