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「罠の戦争」第八話感想「予知不能な状況を生み出す可南子」

泰生目覚める

 なにより驚いたのは事件が解決してしまったことである。
 ドラマの発端は鷲津亨の息子泰生が歩道橋から突き落とされて意識不明の重態に陥ったことだ。亨は犬飼大臣から事件を事故として納得するように言いくるめられ、復讐を誓う。その裏には「力をもつ者は弱いものになにをしてもいいのか」という怒りがあった。
 第七話で鴨居大臣の息子が犯人であるところまで行き着いたが、今回、犯人が罪を認め、警察に出頭した。母親の鴨居ゆう子厚生大臣は大臣を辞し、衆議院議員もやめた。
 隠蔽工作を行ったのは鴨居ゆう子に頼まれた鶴巻幹事長だと判明した。
 息子の泰生は冒頭で目を覚ましてしまう。リハビリは必要なものの深刻な後遺症はなく、万事は「めでたしめでたし」に収まってしまったのだった。
 この先、どうするんだ。
 無理に探すとしたら、隠蔽工作をした鶴巻幹事長の謝罪しかない。

世襲議員鷹野の反乱

 妻の可南子はおそらく「もういい」と思っているはずだが、亨の怒りは収まらない。権力の象徴である鶴巻幹事長に対して戦争をふっかけているからだ。売られた喧嘩ではあるが、「潰してやる」と言われた以上、亨としても「幹事長を潰す」決意をさぜるを得ない。
 この情報を伝えてきたのは幹事長の懐刀である副幹事長の鷹野議員だった。鷹野は亨の友人でもあり、ふたりの間をコウモリのように飛び交ってきた(ようにみえる)。
 ここに来て、鷹野は以前から幹事長を倒す決意をしていたことが明らかになる。鷹野は亨のマンションに遊びにきて、可南子と三人で飲んだときにすでにその話をしていたのだ。
 しかし、そんな底意が幹事長に見透かされていないわけはなかった。幹事長は罠を張る。このあたりの展開、鶴巻幹事長の観察力と底意地の悪さを見せつけていてとてもいい。岸部一徳、名演技である。
 もちろん、反乱は失敗する。ふたりは幹事長の掌の上で踊っていたのだ。

鴨居大臣が動く

 前回に続き、今回も話の中心となるのは鴨居大臣である。
 鴨居大臣の動きが政局を作る。
 では、今回、鴨居大臣を動かしたのは誰か。可南子である。正確には可南子の「傾聴」の姿勢だ。
 前回、亨は鴨居ゆう子を怒鳴りつけた。あなたの行動は息子のためではない、全部自分可愛さだと責めた。鴨居大臣は開き直り、「あの子と私は別人格」と言い出した。
 ちょくちょく姿をあらわしていた息子の文哉だが、とうとう泰生の病室にあらわれる。文哉はそこで、事件当日、なにがあったかを告白する。泰生と可南子に傾聴の姿勢があったからだ。
 翌日、(なぜかはよくわからないが)鴨居大臣が泰生の病室にあらわれる。個人的に謝罪に来たのか、可南子に呼ばれたかのどちらかだ。
 可南子は鴨居大臣と文哉を引き合わせる。二人きりで出会ったときは黙って金を受け取っただけの文哉だったが、母親にはじめて本心を打ち明ける。文哉は母親を憎んでいなかった。警察に行けなかったのは、未来の総理大臣鴨居ゆう子を傷つけたくなかったから。鴨居は息子の心の内を知り、自分の判断の過ちを認めて、辞職に動く。

不意にやってきたどんでん返し

 ラスト近く、亨と鷹野の反乱の失敗と鴨居大臣の辞職記者会見が同期する。すべてを見通していた鶴巻幹事長だが、可南子と鴨居ゆう子のラインだけは予測不能だった。政治の外での出来事だったからだ。
 鴨居は自らの辞職記者会見で、隠蔽工作について触れ、名前は出さないものの、幹事長の関与を匂わせる。
 幹事長と対立している総理大臣がマスコミに対して警察への圧力があったらとしたら許せないと追及の構えを見せていたところだった。
 瞬間の逆転劇。
 罠を仕掛け合っていた政治家たちの思惑を超えた展開となり、みんな茫然自失する。
 亨も本来なら幹事長の罠で「詰み」になるはずが、混乱の中で野放しの状態となった。
 八話まできて、まだ先が読めない。息子の泰生はぶじ生還したというのに、このドラマはどこに向かって疾走していくのか。

今回の植物ネタ

 植物おたくの蛯沢は、デジタルアンツの蟻野をゴルフ場で見張っているときに、突然、水生植物について語り出す。
「植物は進化の過程の中で水中から陸上生活に適応していったんですよ。けど、水生植物は違うんですよ。一度は陸上生活に適応したのに水中に戻っていった。水面に花を出すのがその証拠だと言われていて」
 なんだろう、これ。
 すぐ思いつくのは政治家に適応していった亨のことだ。一度は政治家に適応した亨がまた元の世界に戻っていくことを暗示しているような。
 蛯沢の植物ネタは、一見突飛なことを喋っているようで、次の展開につながることが多いので、気になるところではある。

蛍原の無表情

 ふと気になったシーン。
 亨の選挙違反をしたことを自分だけ知らなかったことに気づく蛯沢。
 蛯沢は蛍原と二人きりの時に、
「よくない話もちゃんと全部教えてください」
 と頼み込む。蛍原は無表情。
「え、なんで黙るんですか」
 このシーンはこれだけで終わり、説明なしに次のシーンに飛ぶ。
 政治の世界はきれい事ではすまない。そこに蛯沢を巻き込みたくないというだけではすまない、頑なな態度である。
 蛍原には亨洗脳疑惑もある(蛯沢の兄の陳情を受け付けたのは亨だということにしたのは蛍原だ)。なにかしらの情報を握っているか、野望があるか、過去に亨と関連していたか。
 このシーンは今後、蛍原が前面に出てくることを示唆しているのではないか。

(了)

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