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【罠の戦争】第四話感想「選挙編、始まる。可南子の活躍」

キーマンは後援会会長・鰐淵益男

 犬飼の地盤である千葉十五区から鷲津亨を出馬させる案は、幹事長派の議員鷹野が考え出したものだ。
 亨の心の中には別の思惑があった。運転手の牛尾から聞き出したホテル情報だ。日比谷のプライムホテル。このホテルを常用している人物、それこそが後援会長の鰐淵益男(六平直政)だった。犬飼に隠蔽を頼んだのは鰐淵ではないか。
 選挙を口実に鰐淵に接近できる。
 こうして政局と亨の復讐が「立候補」をキーワードに結びつく。亨は秘書の蛍原に鰐淵会長の調査を頼む。
 同僚の秘書たちはまだ亨の立候補を知らされていない。犬飼の息子俊介が悪い噂を流し、あたかも亨が権力の虜となり、犬飼の病気をいいことに地盤を乗っ取ろうとしているようにみえる。否定しようにも、亨は実際に鰐淵会長の調査を頼みこんできた。
 不穏な幕開け。亨の足下をぐらつかせ、鰐淵を大きく見せる。脚本が巧みだ。

可南子の謎めいた言動

 蛍原のレポートがどのようなものであったのか、チラッとしか見えない。家族構成は書いてあった。
 鰐淵は地元で水産加工会社を経営し、草野駅周辺にいくつものビルを所有している。県連にも顔が利く。弱点はなかった。
 亨は正面から鰐淵に会いに行き、「恩知らず」と罵られ、追い返される。
 亨の妻、可南子が「私、会ってみようかな、鰐淵会長の奥さんに」と言い出す。このとき、鰐淵の母が認知症の症状を呈し、家庭が崩壊しかかっている情報はまだ入っていないはずだ。可南子の言動は謎めいている。

意外に脆い後援会長の肖像

 可南子がたずねたとき、益男は留守だった。家のなかからなにかが割れる音が響く。玄関から出てきたのは益男の母親だった。裸足で道に飛び出し、「家に帰りたいの」という。「送ります」といってことを収める可南子。
 益男は母親の認知症を見て見ぬ振りをしてすべて妻の美恵子(滝沢涼子)に任せ、介護サービスを使うことも禁じていた。家庭は崩壊寸前だったのだ。
 可南子は市の福祉とつなぎ、益男の母を有料老人ホームのショートステイに預けて、美恵子を家に連れてきてしまう。
 一方、蛍原と蛯沢の調査により、鰐淵が銀行の融資課を巡っていることが判明する。会社の経営がうまく行ってなかったのだ。所有しているビルもすべて抵当に入っていることだろう。内憂外患。鰐淵は孤立していた。

新パターンの登場

 これまで一話から三話では、政策秘書の虻川を叩きのめして追い出し、選挙が近づくのを待って犬飼父子潰しに出た。犬飼大臣は心筋梗塞で倒れ、息子は警察に捕まる。標的を倒すという方向で話が展開してきたが、第四話では鰐淵益男を敵から味方に鞍替えさせるという高度な技に出る。
 弱点を握り、亨は二度目に鰐淵をたずねた。口論している間に益男の母が行方不明になる。上流で川に入ろうとしている老女を亨が発見し、助ける。
 鰐淵はなんと、一皮剥けば親孝行な息子だった。一気に陥落して亨の味方につくことを宣言する。強力なパートナーを得て、鷲津は選挙に出る決意を固める。

鷹野の役割

 肝心の隠蔽疑惑だが、鰐淵は関与してなかった。それがわかるのはストーリーの中盤だ。鷹野が亨を呼び、警察に圧力をかけたのは国会議員であることを告げたから、じつのところ、鰐淵は早々に疑惑対象から脱落していたのである。
 第三話では行き場のなくなった亨に「国会議員」という目標を指し示し、今回は隠蔽工作を行ったものが権力を握る国会議員であることを告げる。鷲津亨は自分の意志で息子の事件の謎を追っているようでいて、つねに鷹野に操られていることが第四話で明らかになった。
 鷹野の上にいる鶴巻幹事長はもっと多くの情報を握っているはずで、鷲津亨と犯人グループの対決は情報戦になっていくことが予想される。現在のところ、そのキーマンとなっているのが鷹野聡史(小澤征悦)である。

人間の弱さ

 蛍原梨恵が犬飼俊介を呼び出し、接近しようとする場面が描かれる。俊介に卑怯な情報を流すことをやめさせるためのスタンドプレーだ。蛍原は車の中に引きずり込まれそうになるが、蛯沢の機転で助けられる。ここで描かれる蛍原はおろかで弱い。これまでずっと勝ってきた蛍原だが、判断ミスも犯すし、強くもない。弱者そのものだ。弱者は助け合わねば強者に勝てない。
 その蛍原が亨の弱点を掴む。蛯沢の兄の陳情を受け付けたのが鷲津亨であり、議員に報告もしていないことが書類に残っている。前に進み続ける亨だが、妻の可南子に謎めいた過去があり、今回またひとつ爆弾を抱えた。爆弾に火がつくのはいつか。巧妙な脚本がサスペンスを高めていく。

追記(2023/02/21)

蛯沢が蛍原にフェイクを仕掛けているのではないか説を読んだ。

自殺した蛯沢の兄が陳情のときに出した名刺には(有)とあるが、蛯沢が蛍原に案内した兄の工場跡に残っていた看板には(株)の文字が。有限会社が急に株式会社になるわけはないし、そういう動きをする必然性もない。罠ではないかというのだ。細かいところを見ているなあ。まいりました。

(了)

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