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【ショートショート】終わりの色

 お父さんが大きな欠伸をしながら、カーテンを開いた。
 窓ガラスが赤い。
「えっ」
 と声を発して、窓をあけた。冷たい風が吹き込んでくる。
「あなた、なにしているの」
 お母さんが近づいてきた。
 ふたりは黙って、真っ赤な空を眺めた。
 五分、十分。
「冷えてきたわ」
 二人は窓を閉めた。
 娘が寝室から出てきた。
「どうしたの」
「空が赤いんだ」
「学校、行きたくないな」
 お父さんがリモコンでテレビをつけたが、画面は空白。ニュースはまったくないし、字幕ニュースさえ流れない。
 ときどきセットされていたコマーシャルやドラマなどが流れるだけである。
「テレビ局の人だって、こんな日に仕事なんか、しないよなあ」
「今日は好きなことをして過ごしましょう」
 とお母さんが宣言した。
 好きなことってなんだろう。
 三人三様に考えたが、よくわからない。やがて、
「私、LINEする」
 と言って、娘は部屋に引っ込んだ。
 お父さんはBlu-rayをセットして、お気に入りの映画を見始めた。
 お母さんは押し入れから段ボール箱を引っ張り出して、推しの切り抜きを読み返し、きれいにファイリングした。
「おなか、空かない?」
「なにか作ろうか」
「いや、オレが作ってみる」
 お父さんはYouTube動画を参考にオムレツを作った。
「うん」
「いける」
 学校や仕事のない一日はとても長い。
 まだ外は赤いままだが、時計の針が十時を指したので、三人はベッドに入った。
「おやすみ」

(了)

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