【ショートショート】焚火
会社帰りのウエノは空腹を抱えて駅から自宅への道を急いでいた。
空き地にドラム缶があって、ちろちろと炎がみえる。
黒いコートを着た中肉中背の男が薪を焼べている。
「焚火ですか」
「そうだよ。寒いかね」
「ええ、北風はこたえます」
「当たっていきな」
ウエノはドラム缶の前にしゃがみ込んだ。
男は、ときどきカニを潰したようなものをぽいっと火の中に投げ入れている。
「気になるかね」
「はい」
「人の魂だよ」
ウエノは男の顔をまじまじと見た。大きく尖った耳、充血した目。
「私は悪魔さ。つまらない魂が溜まったので、片づけている。地獄まで持っていく価値もない」
「どんな契約だったんですか」
「みんな判で押したように同じことを言う。10億くれとか金塊をくれとかね」
ウエノは首をひねった。
「君も10億ほしいかね」
「ぼくはそんなにお金を使いません」
「美女はどうだ」
「釣り合わないでしょう」
「手強いな」
と悪魔は笑った。
「そういう魂がほしいんだよ」
あたりにいい匂いが漂った。
「石焼き芋!」
「食べたいかね」
こくこくとウエノはうなずいた。
「契約になるよ。いいかね」
ウエノは魂の炎で焼いた石焼き芋を食べた。
想像通り、この世のものとも思えないくらいおいしかった。
(了)
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