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【ショートショート】最後の世代

「車を買い換えたいんだけど」と夫が言った。「一緒にディーラーを見に行かない?」
「いいわよ」
 夫妻はプラントベースの店に出かけた。
「こちらの新製品は95パーセント、植物由来となっております」
「なにでできているの」
 と夫が質問する。
「主成分は使用済みの植物油やスギの間伐材からできております」
「エネルギーは電気だし、完璧だね」
「これにしましょう」
 夫妻は新車に乗って帰宅した。
「乗り心地はちょっとおもちゃっぽい」
 と妻がいう。
「軽量化が進んでいるんだ。いいことじゃないか」
 夕食は妻が作った。完全なヴィーガン食である。スーパーの食材もヴィーガンが当たり前になっている。
「これだけなんでも植物由来になっているのに、私たちは肉なのね」
「人間だけは仕方がない」
 五年後のある日、夫妻は赤ん坊売り場を見に行った。最新の赤ん坊がずらりと保育器のなかに並んでいる。
「すごいわね。大豆で人間ができるなんて」
「まったくだ」
 夫妻は自分たちの遺伝子を注入した男の子と女の子を購入した。
 やがて、成長した子どもたちは両親を肉を見るような目で見るようになったが、覚悟の上である。
 夫妻は施設に入る年齢となった。
 かつては老人ホームと言ったような気がするが、建物の入り口には「肉人ホーム」という看板が出ていた。
「牛肉が食べ放題らしいわ」
 と妻はからかうような目で夫をみる。
「ほんとは食べたかったんでしょ」
 夫はなんともいえない顔をした。

(了)

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