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【ショートショート】静かな宇宙人

 世界中の大都市に巨大な宇宙船があらわれたとき、人類は「すわ、戦争か」とおもった。
 無数の宇宙人が地上に降り立った。
 宇宙人は地球人にそっくりだった。
 地上に降り立った宇宙人は、しかし、何もしなかった。
 政治家、科学者、哲学者などがファーストコンタクトを図ろうとしたが、ことごとく失敗した。相手は無反応だったのである。
 宇宙人の数は数千万とも一億とも言われたが、誰がリーダーなのかもわからない。
 念のため、宇宙船の捜索も行われたが、ただの空洞としか言いようがなかった。
 やがて街頭に立つ宇宙人の姿は見慣れた一風景にすぎなくなった。
「タロウ、タロウ」
 と母親が息子を呼んだ。
 タロウは薄目を開き、じっと立っている。
「宇宙人の真似をするんじゃありません」
 タロウは母親の後ろから、手を出して、わっと叫んだ。
「そっちはホンモノの宇宙人だよー」
「まあ、この子ったら」
 それでも執念深く研究を続ける科学者はおり、彼は、宇宙人サンプルAの右の人差し指が一年間で三ミリ動いたという論文を発表した。
 誤差の範囲かもしれなかったが、十年もたつとはっきり指が動いていることがわかった。
 動きには個体差があった。
 宇宙人によって指だったり、腕だったり、口だったり、瞼だったり、さまざまな部位が動いていた。
 彼らが意志をもち、なにかを行おうとしているのは確かだが、残念ながら地球人と宇宙人では、時間の流れが違いすぎていたのである。

(了)

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