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【ショートショート】昔と出会う

 今は昔。
 そりゃそうだ。
「今」
 と言ったら、その瞬間に今は過去になっている。
 今を表現する方法はないが、それは時をあまりにも細かく区切っているからであって、「今」の幅を広げてしまえばいい。
 明日も今だし、昨日も今。
 そうやって時間の区切りを太くしていければ、じっくり今を楽しめる。
 私の今感は歳を重ねるほどに過去のほうへ伸びていき、いまやふだん散歩していても、江戸の空気を感じるほどだ。
 私とは逆に未来の方向に時間の幅を増やしている人物に出会った。
 京都旅行の折り、ふと振り返ると、織田信長が歩いている。癇癪をおこしそうな気張った表情がそれらしい。
「信長様ですか」
「いかにも」
 私たちは喫茶店に入った。
「そなたがさきほどからいじっておるその板はなんじゃ」
「これは携帯と申しまして、遠くの者と連絡をとる機械です」
 さっそく一台契約すると、私は、
「もしもし、信長様ですか」
 と電話をかけた。
「面白いものじゃな。気に入った」
 何十台も購入しようとする信長を止めた。
「携帯は、これだけではなんの役にも立たないのです」
「なんと」
「電波が必要となります」
 さすが天下人となる人は違う。信長は図書館に通って光ケーブルや基地局について学び始めた。
 今は昔。
 昔は今。
 私がまだ見ぬ戦国時代では、すでに信長や秀吉が携帯片手に合戦しているかもしれない。

(了)

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