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【ショートショート】血液泥棒

 気がついたら病室だった。白い天井に白いカーテン。
「検診の時間ですよ」
 看護婦さんの声がした。
 私はベッドから起き上がった。
 そのまま第一採血室に案内される。
 窓口がずらりと並び、何十人という人が採血を待っている。
「担当のスズキでございます。右手を台の上に置いてください」
「はい」
 すっと針が皮膚の中に潜り込んだ。採血専門だけあって、まったく痛くない。カプセルを外し、次のカプセルに取り替える感触がする。思わずこっくりとしそうなほど時間がたった。
「まだですか」
「はい。あとすこしの我慢ですよー」
 子どもをあやすような返事が返ってくる。
 採血のあとは休憩。私は二時間ほど爆睡してしまった。休憩のあとは食事。豪華なステーキが出た。お代わり自由だというので、私は二枚も平らげてしまった。
 その夜も熟睡して、次の日。
 また採血から検査が始まった。
 三日目、いくら食べても血を抜かれるほうが多いせいか、貧血を起こした。
「そろそろ退院ですね」
 と、貴族のような面立ちの医者が言った。
「結局、私はなんの病気なのでしょうか」
「分析の結果、あなたは健康体でした。治療の必要はございません」
 私物に着替え、病院を出ると、専用バスが待っていた。都心のターミナル駅まで送ってくれる。
 自宅に戻ると、私が行方不明になったといって大騒ぎになっていた。
 さてはあの施設、病院ではないな。

(了)

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