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【ショートショート】まるこの気遣い

 新しい体重計が届いた。
 かわいいフォルムをしているので「まるこ」と名づけた。
「ぎゃっ」
 とまるこに乗った妻がうめいた。
「どうしたっ」
 と夫が聞く。
「聞かないで」
 妻はまるこから下りると、自室にこもってしまった。
 次の日、妻はまるこを叱った。
「今度はどうした」
「体重が10キロも減っているの。そんなわけないでしょ」
「たしかに10キロはないな」
「申し訳ございません」
 まるこは素直に謝ったが、それ以来、妻はまるこに近づかない。
 一週間後、まるこは妻の部屋に入っていった。
「奥様、申し訳ございません。正確な値を表示しますので、お乗りください」
「正確な値も、忖度された値もどちらも傷つくの!」
 無理難題だ。
 妻はひそかにダイエット体操に励んでいたらしく、半月後にようやくまるこに乗った。なんだか満足げな表情だ。
「体重、落ちたのかい」
「多少ね」
 それから妻は毎日計測するようになり、まることのお喋りも復活した。ときどき、内臓脂肪がどうの、などと相談事をしている。
 夫は妻のいないときにこっそり聞いた。
「いったいなにをしたんだい」
「3キロ……」
 とまるこは小さな声で言った。
「人間の体重には増減がありますが、3キロまでなら信用できるらしいのです。学習前の私はあまりにも無知でした」

(了)

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