【ショートショート】長寿、ありやなしや
私の知り合いに寿命占いを生業にしている人がいる。
どうやって占うのか仕組みはわからないが、よく当たると評判で、私もみてもらった。私の寿命は七十八歳だそうだ。
そこまで生きられれば十分だ。
「こんにちはー」
友だちのタロウがやってきた。
「ほら、お土産」
といって、へんな卵を一個、くれた。真っ黒な卵なんてはじめてみる。
「なんだいこれ」
「たいへんな温泉卵だ」
「なにがたいへんなんだい」
「一個食べると、寿命が七歳のびる」
「はは、なんてお気楽な」
と言いつつ、ぱくりと食べた。中身は緑色でパサパサである。
笑い飛ばしたものの、気になったので、寿命占いに行ってきた。
「ありゃ」
と知り合いは驚いた。
「あんた、酒でも止めたのかい。寿命が七歳ものびてるよ」
もしかして、ほんもの?
タロウに聞いたら、黒たまごは箱根の温泉で売っているという。
さっそく行ってみた。
頑固そうなおじいさんがひとりで販売しており、大勢の人が深刻な顔をしてそのまわりを取り囲んでいた。
「あんたね、ほんとに寿命が延びちゃっていいの。年取るといろいろつらいよ。つらいのが長引いちゃうよ」
とおじいさんが言うと、脳天気な顔をしたお客はうーんと考え込んでしまう。
私も、これ以上寿命がのびたらいろいろやっかいなものが待っているなあと自分の未来を想像して足が止まった。
長寿、ありやなしや。
タロウはこの卵、食べたのかなあ。
(了)
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