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【ショートショート】職人の復活

 ぼおおお。
 汽笛が聞こえる。
 今日も、世界中から生き残りの人やロボットを載せて、引き揚げ船が港に着く。
 私は、ロビーの到着者リストを目で追っていた。
「和助はいないか」
 と目をこらす。
 いた!
 日本に残された最後の樽職人かもしれしないロボット、和助。
「坊ちゃんですか」
 と和助は聞いた。
「そうだよ、和助。ずっと待ってたんだ。じいちゃんやお父さんはこの戦争で死んでしまった」
「ご愁傷様です」
 爆撃された樽工場は、私がひとりで復活させた。しかし、文献だけで樽を作ることはできなかった。
「残念ですが、ご期待には添えないかもしれません」
 と和助は言った。
 肝心の右腕は、戦場で何度も破損し、汎用品に取り替えられていたのである。
 和助はさっそく竹を手に取って作業にとりかかったが、
「ダメです。ぜんぜん出力が足りません」
 と言った。
 クラウドに保存してあった設計図はとうに失われている。
「諦めるのはまだ早い」
 私は和助の人工頭脳にケーブルをつなぎ、メモリをサーチした。案の定、パスワードで保護された領域に設計図が保存されていた。
「とうさんが、クラウドなんか信用するわけないと思っていたんだ」
 私はさっそく特注の右腕を発注し、和助の汎用腕と取り替えた。
 パキッ、パキッと気持ちのいい音を立てて竹が割れていく。
 見様見真似で私も樽作りを手伝った。
 戦後初の和樽の完成。
 事業が軌道に乗ったら、すぐに和助二号を生産するつもりだ。

(了)

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