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【ショートショート】柿のタネ

「残業させちまって悪かったな」
 ヤマシロは部下のタテカワショウコに謝った。見張りが長引いてしまったのである。ふたりは小さな探偵事務所の所員だった。
 晩飯を奢り、流れでヤマシロの行きつけのバーに行った。
「なに飲む」
「カシスソーダをお願いします」
「じゃ、それとバーボン。あと、柿のタネね」
 ヤマシロはピーナッツに手を伸ばした。
 タテカワもピーナッツに手を伸ばした。
 偶然ではなかった。ふたりともピーナッツ派だったのである。
 柿のタネの山が残ってしまった。
 なんとなくきまずい。
「カシューナッツを」
 ヤマシロは追加した。
「おいしいですね」
「ああ、いいね」
 ふふ、とバーテンダーが笑った。
「どうしたんです」
 とタテカワが聞いた。
「ヤマシロさん、いつもカシューナッツを頼むのに。裏目に出ましたね」
「あ、すみません。気を遣っていただいて」
「いやいや」
 と言って、ヤマシロは柿のタネに手を出した。
「私も」
 ふたりはひたすら柿のタネ崩しに集中した。
 バーを出て、タテカワが言った。
「じゃ、次回はカシューナッツから」
「次回……」
 とヤマシロは呟いた。ちょっと胸が高まった。

(了)

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