【ショートショート】贈り物

 木枯らしがぴゅーと吹いて、紙が宙に舞った。
「わあ、しまった」
「おまえ、わざとだろう」
「わかるか」
「わからいでか」
 45点の漢字の書き取りテストは、どんどん空高く舞い上がっていく。
「さらば赤点」
 そこからひとつ信号を通り過ぎた通りで、紙はぺたりと女の子の顔にひっついた。
「きゃあ。なにこれ」
「風が強いから、気をつけなよ」
 制服姿の仲間が言った。
「気をつけようがないよ。あ」
「どうしたの」
「これ、吉岡の赤点」
「えっ、そうなの。何点」
 もうひとりの制服が声をあげる。
「45点」
「わははは、バカだバカだ」
「あんた何点だったのさ」
「65点」
「あんま変わらないじゃん」
「赤点じゃないもーん。赤点はこうしてやれ。えいっ」
 女の子のひとりがふざけて漢字の書き取りテストを町内会の掲示板に貼り付けた。
 買い物帰りのお母さんが掲示板の前を通りかかる。
「なにこれ。赤点晒し者かあ、って、うちのバカじゃないのっ」
 吉岡は、母親の握っている漢字書き取りテストをみて蒼白になる。
「な、なんで」
「なんでもなにも、掲示板に貼ってあったわよ」
「えーっ」
 木枯らしのくれた小さなプレゼントのせいで、吉岡はその夜遅くまで漢字ドリルと格闘する羽目となった。

(了)

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