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【ショートショート】神隠し

 ひとりぼっちになっちゃいました。
 ぼくはいまラジオブースのマイクに向かって喋っています。いつもなら向かいに構成作家の安田君がいて、ハガキやメールを印刷したものを渡してくれるんです。
 で、コントロールブース、副調整室ともいいますけど、そこにはディレクターの山際さんとアシスタントディレクターの草野君がいました。
 最初に草野君が分厚いドアを押して外に出ていきました。トイレにでも行ったのだろうと気にしなかったんです。
 気がついたら、山際さんもいませんでした。本番中にコントロールルームが無人だなんて、あり得ません。
 ねえ、安田君。
 と言ったら、安田君が黙って立ち上がったんです。
 彼はそのまま扉を開けて出ていきました。
 おーい。安田くーん。帰ってきてくれよー。
 なにが起きているんでしょう。
 リスナーのみなさん、ご無事ですかー。
 ちょっと外の様子を見てきますね。しばらく無音になりますが、ごめんなさい。
 私はコントロールルームの分厚いドアを開けた。
「誰かいませんかー」
 廊下にさまよい出て、ラジオ局のなかを歩き回った。飲みかけのコーヒー、散乱した書類。ついさきほどまで人がいた雰囲気。
 ビルの外も無人。車も動いていない。
 しかたなくコントロールブースに戻ると、みんなが口々に、
「浅井さんっ、本番中にどこいってたんですか」
「音楽でつないでおきましたから、早くっ」
 と叫ぶ。
 いや、だって君たち。
 私は安田君に手を引っ張られ、ラジオブースに戻った。
 なんとか番組を終えて、席を立つ。
「みんな、途中でどこかに消えたよね」
 と問い詰めたら、不審げな顔をされた。
「消えたのは浅井さんじゃありませんか。こっちは焦ったんですからね」
 と山際さんが苦い顔をする。

(了)

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