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【ショートショート】脹らむ財布

 昼休みに社食でうどんを食べ、屋上で休んでいたら、係長が通りかかった。
 雑談になる。
「スズキくん、これをもらってくれないかね」
 といって係長が財布から取り出したのは、肩たたき券だった。
 まだ漢字がうまく書けないらしく、ひらがなで「かたたたきけん」と書いてある。
「かわいらしいですね」
「うん。そうなんだ。ただ、毎日くれるんで、溜まってしまってね」
 これは捨てにくい。
 スズキはありがたく受け取った。
 その話が伝わったのか、いろいろな人が肩たたき券をくれるようになった。
 スズキの財布の中は肩たたき券でパンパンだ。
 困っていると、通勤電車の窓から「肩たたき銀行」の看板を見つけた。
 途中下車して入ってみた。名前の通り、肩たたき券を預ける銀行であった。
 これはいいものを見つけたと喜んでいたら、ある日、肩たたき銀行から、
「満期になりました」
 という連絡とともに、一通の手紙が届いた。
 指示書に書かれている通り、滝行に行った。究極の肩たたきである。
 スズキは白装束に着替え、滝に打たれた。
 思ったより痛くはなかった。
「申し訳ないことをしたね」
 と係長があやまり、スズキは、
「いいえ、気持ちよかったですよ」
 と答えた。
「そうか。では、申し訳ないが……」
 また、スズキの財布に肩たたき券が溜まり始めた。

(了)

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