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【ショートショート】釘の街

 トントンカンカン。
 トントンカンカン。
 朝の目覚めの音だ。
 街のそこここで釘を叩く音がする。
 ぼくは寝床から抜け出し、腰に金槌をぶら下げた。
 これから大学に行く。バス停に向かって歩いていると、道端に飛び出している釘をみつけた。さっそく腰から金槌を抜き出し、トントンと釘を打ち込んだ。
 慣れない人が釘を叩くと力を入れすぎ、衝撃で回りの釘が緩んでしまうことがある。
 ぼくはあたりを見回したが、幸い、どこにも飛び出した釘はない。
 大学では「保守サークル」に参加している。主義主張の話ではない。学校を守るためのパトロール活動だ。
 つい先日、破壊サークルの連中にやられて、文学部の第三号館が崩壊した。やつらの仕事は完璧で、特殊な釘抜きを使って、きれいに釘を抜いていく。飛び出している釘を見つけるのは簡単だが、なくなった釘を見つけるのはむつかしい。
 部室には後藤がいた。
「みんなはまだかい」
「今日は集まりが悪いみたいだな」
「じゃ、二人で行こう」
 ぶらぶらと広い大学構内を散歩する。
「あっ」
 と後藤が呟いた。
 建築学部の一号館を見上げる。
 何人かの学生が屋上で作業をしている。
 急いで駆けつけると、すでに彼らの姿はなかった。
「やられたかな」
「チェックしてみよう」
 ぼくらは地を這うようにして、屋上の状態をチェックしていく。あった。釘を抜かれた木材はだんだん穴が縮小して見わけがつかなくなるが、まだ抜かれたばかりらしく、ぽつぽつと材木に穴が空いているのがわかる。
 ぼくらはトントンと釘を打った。
 ぐらっと大きな揺れが来た。
 いや、そんなに大きな影響があるはずは……と思って顔を上げると、遠くのほうで街の一部が陥没する様子がみえた。
「やられたなあ」
 と後藤が言った。
「建築警察も人出が足りないのか」
 ぼくらはまだ大工見習いだが、あとでボランティアに行こうとふたりで話し合った。

(了)

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