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【ショートショート】倍々猫

 中国の奥地には倍々猫が住んでいるそうだ。
 倍々猫は代々の皇帝、いまなら共産党書記長が飼育しているという。
 猫好きの私は一度見てみたいものだと思っているが、倍々猫が動物園で飼育される気配はまったくない。
 もっとも、この話、子どもの頃読んだ絵本で知ったのだから、信憑性のないことおびただしい。
 ある日、佐渡島に巨大な猫が上陸したというニュースが流れた。全長十五メーメルの雌猫である。
「おい。倍々猫だ。きっと中国の奥地から脱走してきたんだよ」
 と私は喜んだ。
「おとうさん、倍々猫ってなに」
「生まれるたびに身長が倍になる猫だよ」
「へえー」
 遠くから撮られた写真は、遠近感が変であるものの、かわいい錆び猫であることに変わりはない。
 雌猫は仔猫を産んだ。
 三匹の仔猫は三十メートルまで大きくなるだろう。
 日本政府は倍々猫の成長をうまくコントロールできず、二年後にまた仔猫が生まれてしまった。この仔たちは六十メートルまで育つはずだ。
 そうなればもはや怪獣だな。
 日本政府は倍々猫を中国に返還しようと交渉したが、断られた。
 何十年か先にたいへんなことになっているのは間違いないが、いまはただの大きな猫の親子である。
 私は毎日のように倍々猫の観光ツアーに申し込んでいるが、大人気でなかなか当選しない。

(了)

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