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yasuaki0430
【ショートショート】平気な客
オレの趣味は銭湯を巡ること。今日は初めての銭湯にやってきた。
身体を洗ってから、一番手前にある湯船に身を浸した。
「ひゃー」
と声が出そうになる。
温度計を見た。四十五度。ちょっと高めかも。
隣に移った。
四十七度。
「うっ」
涙がにじむ。
しかし、じっとしていれば、身体のまわりのお湯が体温で冷やされ、膜になる。
三分間我慢して、飛び出した。カランから水を出し、ザバザバかぶる。
「ふーっ」
その隣では、頭のはげ上がったおじいさんが我慢をしている。茹で蛸みたいだ。温度はなんと五十度。
「大丈夫ですか」
「こ」
「はい?」
「声をかけるな。あああ」
湯が動いて膜が破れたらしい。
オレはじいさんをタイルの床に引き上げた。水をぶっかける。
熱湯風呂はまだ続く。その横は六十度という殺人的な温度だが、三十歳くらいの毛深い男が涼しい顔をして身を浸していた。
オレはおそるおそる、
「熱くないですか」
と声をかけた。
「ぜんぜん。いい気分でーす」
と若者は手をふる。
湯舟に手をつっこんでみると、意外にもぬるかった。
若い男は立ち上がると、湯舟から出てきた。デカい。まるで全身に毛皮を着ているかのようだ。この姿はどこかで見たことがある。
雪男だ!
彼が立ち去った後の湯は、飛びきり熱かった。
(了)
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